3-5
ピアノの外に転がり落ちるかに思えた少年のカラダは、しかし、前のめりに、ピアノのヘリに下腹を引っかけた状態で2つ折りにブラ下がっていた。
関節や骨がなくなって、軟体動物にでもなってしまったかのようだ。
その状態から、両手を真下に伸ばしつつ、グネグネと床に這いおりようとしているのだ。
ついに、その両手が床にペタリとたどりつくと、その手を交互に前方に這い進めていく。
全身をヘビのように引きずりながら。
「け、
少年は、真紅の粘液にまみれた小さな顔を上げて、薄いクチビルを三日月のカタチにニンマリとゆがめた。
「ひ、ひいいいいいーっ!?」
「
……
続けざまに、両方の薬指と小指を組み合わせ、親指の側面どうしをつけ、ぴんと伸ばした中指の先端の腹を押し付け合いながら、人さし指は離してゆるりと曲げて。
「オン・シュチリ・キャラロハ・ウンケンソワカ」
ピアノの中から無数のピアノ線がピーンと伸びて、またたく間に少年のカラダに巻き付いた。
そして、キュキュキュキュッ……と耳ざわりな金属音をたてながら、伸びきったゴムが収縮するようにイッキにピアノの中に戻っていく。
自動的に、少年のカラダも、真紅の粘液の池に引きずり戻された。
「タス……ケ……テ……っ!」
少年は、ピアノのヘリに両手でスガリつきながら、かろうじて顔だけを池の上にのぞかせて、くぐもった悲鳴をあげた。
「ななな、なんてことするんだ、
「夢の中で死んだら、夢を見ている本人も死んじまうんだぞ!?」
「"彼"は、もう、とっくに死んでる。残念だけど」
「は!? なにバカなことを……」
「それに、彼は
「え……っ?」
「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・
マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン」
と、涼やかに真言をささやいた。
とたんに、まぶしい金色の光が、小ウサギを包み込んだ。
次に目を開けたとき、
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