3-1

手を握りあった千影ちかげ陽向ひなたは、広大な舞踏ホールを軽やかに走りつづけた。

ウサギの仮面をつけた少年たちの間をスリ抜けて。


やがて、壮麗なオーケストラのワルツがどんどん耳から遠ざかって、まったく聞こえなくなった。

と、同時に、らせん階段が目の前にあらわれる。


つややかな黒檀こくたんの手すりに、紺青こんじょう絨毯じゅうたんが敷きつめられた重厚な踏板ステップ


フッと視線を上げると、階上の踊り場から手すりに身を乗り出している、深紅の燕尾服えんびふくの少年が1人こちらを見つめている。

黒いウサギの仮面をつけているが、フワフワしたミルクティー色の髪と小柄な体型は、圭斗けいとにソックリだ。


「見つけた、圭斗けいと!」

千影ちかげは、トビ色の瞳を明るく輝かせた。


深紅の燕尾服の少年は、からかうようにヒラヒラと階下に向かって小さな手をふると、ケラケラとカン高い笑い声をあげながら踊り場の向こうへスキップをして行った。


「ちょ……っ、待て! 圭斗けいとっ!」

千影ちかげは、陽向ひなたの手をほどいて階段を駆けあがった。


陽向ひなたも後を追いかけたが、踊り場の手前で急にピタリと足を止め、階下を見下ろした。


いつの間にか、らせん階段の下に少年たちがヒトカタマリに集まって、ウサギの仮面の下からのぞく赤い口をニヤニヤと三日月のカタチに曲げながら、全員こちらを見上げている。

まさに得体のしれないシュールな悪夢のヒトコマそのものの、不穏ふおんな気配が周囲を包み込んでいた。


陽向ひなたは、両手を胸の前に合わせると、なめらかに口ずさんだ。

「オン・センダラ・ハラバヤ・ソワカ

 ……急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう


たちまち、上空から、ハラリハラリと無数の笹の葉が舞い降りてくる。


キョトンと真上を見上げる少年たちの顔やカラダに笹の葉が触れたとたん、少年たちの姿は人間ではなくウサギに変わった。


耳をピンと上にあげた純白のウサギや、毛足の長いクリーム色のウサギ、耳の垂れた灰色のウサギに、茶色い小ウサギ……

さまざまな大きさや種類に色とりどりの柄のウサギが、ホールをピョンピョンと無邪気に跳ねまわりはじめる。


やがて、床に散りつもった笹の葉を次々にパリパリとかじりだすと、まぶしい金色の光に全身が包まれて、その光の収縮とともにパッと姿が見えなくなった。

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