2-8

双子にいざなわれるまま、犬丸警部と圭斗けいとは、部屋を出て縁側の奥に進み、渡り廊下をとおって別の建物に移動した。


神社の境内を包む竹林の中に埋もれるように、ひっそりと隠れて建っている。

屋根から土台まで六角形の形状からなる朱塗しゅぬりの大きなお堂で、渡り廊下の突き当りの扉を開けると、六角形のひと間だけの空間が広がっていた。


10坪ほどの広さで、天井から壁や床にいたるまで、磨き抜かれた板ばりの部屋だ。

天然の木材の良い匂いが、奥殿よりさらに強く立ち込めている。


部屋の中央には、真っ白いシーツをピンと敷きつめた分厚い敷き布団が2つ、すき間をあけて敷いてあった。


枕もとの間には小さい文机ふづくえがあって、大きな砂時計と呼び鈴がひとつづつ並べて置いてある。


千影ちかげは、無造作にゴロンと奥の布団にアオムケに寝ころぶと、

圭斗けいとは、そっちね」

と、左にある布団を指さして、ぶっきらぼうに言うなり目を閉じてしまった。


圭斗けいとは、おそるおそる布団のスミにオシリをおろしてから、不安げに陽向ひなたを見上げた。


陽向ひなたは、文机に背中を向ける格好で、ふたつの布団にはさまれている間の床にスッと静かに正座をして言った。

「大丈夫だよ。千影ちかげと同じように、横になって目を閉じて」


圭斗けいとは、今度は、救いを求めるように犬丸警部を見上げた。


犬丸警部は、布団の隣にどっかりとアグラをかいて座り込み、

「私が見守っているから心配いらない。キミに危険があれば、すぐに中止させるから」

と、クギをさすように陽向ひなたの横顔をヒトニラミしてから、圭斗けいとに力強くうなずいてみせた。


こんなバカげた茶番は、ハナから信じちゃいない。

いかんせん、ついさっきの陽向ひなたの発言が気になって仕方ない。


ウサギ小屋からいなくなった黒いウサギの情報は、ウサギの飼育にかかわっていた小学生たちと教師、それに、警視庁の捜査関係者しか知りえない情報だ。


そのうえ、今日、北関東の山中にあるこの神社を犬丸警部と圭斗けいとが訪れることは、捜査チームの仲間にしか報告していない。

陽向ひなたが事前に小学校に連絡をして、行方不明のウサギの情報を聞き出す猶予ゆうよはまったくなかったはずなのだ。


にもかかわらず、陽向ひなたは、「シッポだけ白い黒ウサギ」と明言した。

当てずっぽうで、ここまでズバリ言い当てることができるとも信じがたい。


カラクリを知るには、もう少し、このウサンクサい双子の茶番につきあってみるのが手っとり早そうだ。


圭斗けいとをオトリにさしだすカタチになるのが、少しばかり後ろめたい。

でも、なにかの拍子で、事件の犯人につながる手がかりを圭斗けいとが思い出さないとも限らない。


犬丸警部のいささかヒトリヨガリな胸算用むなざんようも知らず、圭斗けいとは、やつれた顔に信頼しきった微笑みを弱々しく浮かべると、制服姿のまま白いシーツにアオムケになり、青白いマブタをそっと閉じた。

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