2-6

なるほど一卵性の双子というだけあって、タタミの上に並んで座っていると、顔と体の造形はウリふたつだ。


なのに、かたや17才にして神社の宮司をつとめる弟の陽向ひなたは、健康的に日焼けした伽羅色きゃらいろの素肌に、神主の平服らしい和装を凛々りりしく身にまとい、綺麗な両手をヒザの上にキチンとそろえながら、姿勢よく端然と正座をしている。

その一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくが、犬丸警部も顔負けなほどに超然ちょうぜんとして大人っぽい。


対して、自称『夢催眠ゆめさいみんカウンセラー』を名乗る双子の兄の千影ちかげは、透きとおるような色白の顔に、クルクルと落ち着きなく表情を変える明るいトビ色の瞳を子供っぽくキラめかせながら、洗いざらしのラフなTシャツと穴だらけのダメージジーンズ姿でアグラをかき、腕組みをしながら背中を丸めているのだ。


まあ、幽霊やオカルトのタグイをいっさい信じない犬丸警部にとっては、どっちに転んでもウサンクサイことには変わりはないのだが。


しかし、犬丸警部の予想に反して、千影ちかげは、圭斗けいとの依頼に、あからさまに難色なんしょくをしめした。

「やめといたほうがいいんじゃない? 解離性健忘かいりせいけんぼうってのは、耐えがたいトラウマから自我を切り離すための防御本能なんだからさ。悪夢を掘り起こせば、きっとトラウマもブリかえすよ。ムリに記憶を思い出すなって医者に言われてんなら、なおさら」

少しサビを含んでカスれた響きを持つ甘ったるい声とはウラハラに、意外と的のド真ん中を射た正論をついてくる。


―――こいつは、思った以上にヒトスジナワではいかないかもしれない。

犬丸警部は、千景ちかげに対する先入観をいささか軌道修正きどうしゅうせいする必要にせまられた。

長丁場ながちょうばにそなえて、座布団の上にたたんでいた長い両脚をさりげなく崩す。


「でも、この1週間ずっと眠れないんだ、ボク。目をつぶるとたちまちイヤな夢を見て飛び起きてしまうんだもの。もうクタクタで、ヘンになりそうなんだ。助けてよ、千影ちかげ!」

圭斗けいとは、千影ちかげのヒザにつめ寄った。


憔悴しょうすいしきった真っ青な顔色と、落ちくぼんだ茶褐色の瞳の下のドス黒いクマの鬼気迫ききせまる迫力に、さすがの千影ちかげもたじろいだ。


昨年の5月なかばに高校を退学して以来、顔を会わせるのは1年と4か月ぶりだが、引っ込み思案で大人しいながらもニコニコと育ちのよさそうな笑顔をずっと浮かべていた印象の強かった、かつてのルームメイトの変貌へんぼうぶりを見ては、門前払いもできなくなった。

「イヤな夢って、どんな夢なん?」


「覚えてないんだ、ぜんぜん。いつも自分の悲鳴で目が覚めて、そのとたんに夢の内容を忘れちゃう。でも、恐怖感だけは残ってるんだ。それで、眠るのが怖くてたまらなくて……」

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