2-5

すがすがしい青畳あおだたみが敷きつめられた八畳の和室。


障子戸しょうじどの真向かいの壁際のローボードの上に50インチの薄型テレビと据え置き型のテレビゲーム機が並んでいるほかには、ノートパソコンが置かれたデスクが奥の方にひとつあるだけの殺風景な部屋だ。


テレビのディスプレイには、オンラインゲームのプレイ中の映像が、めまぐるしく動いている。

瓦礫がれきだらけの荒廃した市街地で、露出度の高い水着まがいの戦闘服を身につけた伽羅色きゃらいろの肌の美少女キャラクターが、縦横無尽じゅうおうむじんにフィールドを飛びまわりながら、肩にかついだ巨大なマシンガンをあたり一面の敵キャラクターに向けて連射しまくっているのだ。


ヘッドホンをしながら座椅子にアグラをかいて、しなやかな背中を丸めている月御門つきみかど 千影ちかげは、ディスプレイを目の前で食い入るようにニラミつけながら、

「あんだよー、このくそエイム! ヘタに設定いじくりまわすんじゃなかったよ、もうーっ……」

と、1人でブツブツとボヤキながら、ゲームのコントローラーを両手に持って忙しくスティックに指を走らせていた。

「よっしゃ、3キル!」


そう叫んだ瞬間、耳元で急に、


千影ちかげ、キミにお客様だよ」


「うわわわわーっ!?」

ギョッとした千影ちかげは、空中にコントローラーを放り上げると、座椅子から転がり出るようなテイで四つんばいになって、後ろをふりかえった。


青畳あおだたみに映える純白の足袋たびが真っ先に目に入り、視線を上げれば、パリッとのりのきいた上衣と紫紺しこんはかまの和装ひとそろえを身につけた双子の弟が、姿勢よく涼やかに立っていた。


千影ちかげは、自分の取り乱しぶりをごまかそうと、オオゲサに怒鳴った。

「なんなんだよ、勝手にヒトの部屋に入ってきやがって!?」

いかんせん、どんなに怒ってみせても、生まれつき口角がチョコンと上がったクチビルには、かすかな微笑がまとわりついてみえるので、いっこうに迫力がないのが悲しいところだ。


陽向ひなたは、取ってつけたような社交用の笑顔をはりつけたまま、穏やかに答えた。

「ごめん。何度も声をかけたんだけどね」

と、千影ちかげのアタマから取りあげていたワイヤレスのヘッドホンを差し出した。


千影ちかげは、バツが悪そうに舌打ちをもらすと、乱暴にヘッドホンを奪い返しながら、ようやく陽向ひなたの後ろに立つ2人に気付いて、

「誰?」

ぶっきらぼうに問いかける。


―――こりゃあ、想像以上にタチが悪そうだ……

と、犬丸警部は、心の底からゲンナリしていた。

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