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地元では霊峰とたたえられる、榛名山はるなさん山中さんちゅう

鬱蒼うっそうとした竹藪たけやぶに囲まれた神社は、予想をはるかに超える豪壮ごうそうな社殿をかまえていた。


境内では、意外なほどに多くの参拝客と、のりのきいた和装の装束と袴を身につけた神主を何人も見かけた。


ずいぶんとハブリのよさそうな神社だ。

犬丸警部のアタマの中には、「霊感商法」とか「魔除けのツボ」とか「インチキ霊媒師」だとかいったタグイのワードがパトカーのランプのように次々に点滅てんめつした。


すぐさま駐車場にトンボガエリをしたい衝動しょうどうにかられて仕方ないが、隣を歩いている少年のワラにもすがるような切羽せっぱつまった表情を見てしまったら、もうハラをくくるしかなかった。


参道の近くを通りかかった神主に声をかけて、月御門つきみかど 千影ちかげへの面会を求める。


「では、ご案内しましょう」

アポなしの訪問だったが、神主は、2人の名前すら問いただすことなく二つ返事で言うと、お手本のような端正な愛想笑いを顔にはりつけて、スタスタと歩きだした。


ヤケに若い神主だ。圭斗けいとと変わらない年頃だろう、きっと。

圭斗けいとも中性的な可愛らしい美貌を持っているが、この神主の少年の姿は、どこか浮き世ばなれしている。


姿勢よく引きしまった痩躯そうくに、淡い色の上衣と紫紺しこんはかまが完璧になじんで、まぶしいほどに凛々りりしい。

綺麗に日焼けした顔も、ハッとするほど整っている。


紫がかったツヤヤカな黒髪に涼しげな柳眉、長いマツ毛に覆われたアーモンド形の大きな目に浮かぶ深遠な黒曜石こくようせきの瞳には、神秘的な紫水晶アメジストの光が奇跡のようにキラめいている。


もとから口角が柔らかく上を向いたクチビルからは、清らかに澄みきったき水をホウフツとする耳通りのいい声が、

「あちらが、家人が起居をいとなんでいる奥殿おくどのです」

と、涼やかに響く。


社務所の裏手にある奥殿は、ヒノキの良い匂いがたちこめるシンプルな平屋の家屋だった。


神主の少年にうながされるまま、ヒスイ色の踏み石の上に靴を脱いで、そのまま外廊下にあがる。


廊下を進んだ先の角を曲がると、裏庭の小さな池をのぞむ縁側に面した部屋の前で、神主の少年は立ち止まり、室内に向かって障子ごしに声をかけた。

千影ちかげ、お客様をお連れしたよ。入ってもいい?」

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