第38話 カイエンに会えるなら
私は天蓋のベッドに放り込まれた。
ロイドが上から覆いかぶさる。
ぎらついた目が恐怖心を掻き立てた。
震える身体を押さえつけられる。
その時、コンコンとノックが聞こえた。
「私です」
部屋の外から聞こえる女性の声に、私に跨ったロイドはちっと舌打ちをして、ベッドから降りると
「入れ」
ぶっきらぼうに言って、髪をかき上げた。
私はその間に、高そうな寝具でクリームだのを拭き取ってやった。
「万事順調ですわ、ロイド様。今、王宮内は大慌て」
「地下の二人の様子はどうかな?」
「カイエン様と王太子殿下ですね。それはそれは憔悴しきっていましたわ」
うふふと笑う白いローブを被った女。この声は…
「ご苦労だったな、パルマ」
やはり、パルマだ。
僅かに除くその顔には、呪いの文字が見え隠れしている。
(パルマ…あなた、そこまで堕ちたのね)
確かに協力させるには打ってつけの人物だろう。
「そうだわ、ロイド様。これを」
言ってパルマは透き通った透明の球を差し出した。
人の拳ほどの大きさのそれは、さほど重そうではない。
「呪い師から買ったのです。この水晶を覗いてみてください。王宮内で今起こっている事が映し出されるんですの」
背の高いロイドは、差し出された水晶を屈んで覗き込んだ。
「ふぅん?…これはこれは、国王陛下、随分とお疲れのご様子。ははっこれは滑稽だな」
遠目からでも、バタバタと走り回る人々が見える。
「気に入った。暇潰しに置いておこう」
「では、何か変事がありましたらお知らせに参ります」
「ご苦労」
パルマは去り際、私を横目に見た。
だが、彼女は無感情に目を逸らすと扉を閉めて去っていった。
「なかなか良いおもちゃだ。セレンも見てみるかい?」
「結構です。それよりもパルマ様は…」
「まあ、君に対しての復讐心が燃え盛っているからね。大いに活用させてもらうよ」
(どこまでも卑劣な男)
「さて、興が覚めてしまったな」
左右の指を合わせて楽器を弾くように指を動かしながら思案している。
時折水晶玉を覗き込んでは満面の笑みを浮かべた。
私はベッドから立ち上がり、乱れた緑のドレスの裾を正す。
(髪も顔もベタベタする…)
心底うんざりした。
その様子を見たロイドは目一杯切ない顔をした。
「セレン、こんなに汚れて可哀想に」
言って、にこにこと笑顔を向けた。
つかつかと近づいてきて顎をぐいと掴まれる。
「湯浴みがしたいだろうなあ。……だがダメだ。クククッ…お嬢様には耐え難いだろうな」
(くそやろう)
使い方が正しいかは分からないが、知っている中で一番の暴言が浮かんだ。
そのクソ野郎はポンと手を打つ。
「そうだ、せっかくだから君の有様をカイエン君に見せてやろうか!名案だ。……おいおい、そんな怖い顔で睨むなよ。彼は地下で王太子殿下と良い子でねんねしているぞ」
ロイドは私の首筋にナイフを突きつけて
「変な気を起こすなよ。もし君が何かをすれば、もう二度とカイエンには会えないと思え」
私の頬をピタピタとナイフで叩く。
精一杯侮蔑の視線を向けても、目の前の男はニヤニヤするだけだった。
カイエンの無事が分かるなら…その想い一つ持って、共に部屋に出た。
地下へ続く階段を一段ずつ慎重に降りる。
何かの弾みでナイフで肌が切れてしまいそうだ。
響く足音に、蝋燭で照らされて伸びた影。
全てが禍々しく歪んでいる様に思える。
格子が嵌められた、薄暗い部屋の前に来た。
奥を見ると、男性が二人座っている。
この暗い部屋で一際目立つ金髪と、見慣れた体躯の男性。
王太子殿下と、カイエンだった。
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