第37話 屈辱
優越感にたっぷりと浸っている目の前の男は私にケーキと紅茶を勧めた。
何れにも手をつけないでいると
「毒なんて入っていないさ」
と言ったが、そうじゃない。
私は精一杯背筋を伸ばす。
できるかぎり上品に。
こう言う時こそ、隙を作ってはいけないからだ。
「私をどうするおつもりですか?」
ロイドは両手を組んで、頬杖をつく。
「そうだな、本題に入ろうか。セレン、君には私と添い遂げるか死ぬか…どちらか選んで欲しいんだ」
わざとらしく精一杯切なそうな表情と仕草で言った。
それを受けて、私はわざと少しだけ微笑む。
「そのどちらもお断りしますわ」
がん!という音がして、思わず肩が跳ねる。
テーブルを拳で叩きつけたようだ。
「どちらか選べと言ったはずだが…」
力んだ拳をそのままに、はらりと乱れた髪の隙間から、射抜くように睨まれた。
「……では、もし添い遂げるとなった場合は?」
「カイエン君を開放してあげよう」
パッとのけぞって、両手を広げた。
「…死ぬと言ったら?」
「カイエン君は王太子殿下と仲良く死んでもらおう。筋書きはこうだ。セレン殿に一目惚れした王太子を激怒したカイエン殿が殺害。ことの重大さに気づき、セレン殿をも手にかけカイエン殿は自ら自害…我ながらなかなか傑作だ」
うんうんと言って自画自賛する。
「では、どちらも断ると言ったらどうなるのでしょう?」
突然ロイドの長い腕が伸びてきて、私の首を絞めた。
「……そうなったら君を殺してしまおう。屈辱の限りを尽くした後で。それからカイエン君も王太子も殺してしまおう。考えろ…セレンは馬鹿じゃないだろう?」
「ぐっ…」
もがき、手を引っ掻くと、ぱっと離された。
「ゴホッゴホッ…うっ」
「苦しかったのだな、かわいそうに…お茶を飲ませてあげよう」
ロイドはカップを雑に持ち上げると、ぐいっと紅茶を口に含み、顎を掴まれ口移しされた。
「〜〜〜っ!!」
ぼたぼたと、ぬるい紅茶が滴る。
顎をつかまれたまま、まじまじと見られる。
歪んだ表情でフンッと笑った。
「そうだ、ケーキも食べさせてやろう」
クリームがつくのも気にせず片手で掴み、乱暴に頬張ると、強引に唇を奪われ口内に押し込まれた。
「っっっ!!!!!」
ぐいぐいと手で押しのけるが、却ってそれがロイドを煽ってしまった。
深くなるくちづけに抗い、なんとかロイドを離した。
「王族だろうと、こんなことは許されませんわ…」
袖でごしごしと口を拭く。
「ここには君と私しかいないからね。一歩外に出てごらん、君が何を言ったって、それはただの妄言だ」
それよりも、と言って続ける。
「紅茶とクリームまみれじゃないか」
私は腕をぐいと引っ張られ、そのまま引き摺られるように天蓋のベッドへと放り込まれた。
「かわいそうなセレン。私は君を愛しているよ。もう君には私しかいない」
ああ、荒くなる吐息が耳にかかる。
--不快だ。
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