第51話 冥洞《めいどう》

「速い!!」


 龍となった龍漿仙りゅうしょうせんは、

 ものすごいスピードで空をかけ、景色が目まぐるしくかわる。


「この速さで一日近く飛んでも世界の果ては見えてこないのか)


「途方もない広さだな......人間の住むところをゆうに十個分は、

 越えているぞ」


 こうが驚いていった。


「ここ全てに魔獣や王魔おうまがいるなんて、

 信じられません」


 碧玉へきぎょくが身震いした。


「人がまだ踏みいっていない土地だ......

 いずれは人が住むであろうがな......」


 龍漿仙めいえいせんはそういう。


「この仙境とはなんなのでしょう?」


 蒼花仙そうかせんが聞いた。


「仙境か......遥かな昔、人が人間界に住むまえ、

 気が霊獣と化した。最初の霊獣であり、

 のちの最初の仙人でもあった。

 今となっては名すらわからんがの......

 その仙人はいくつか気をわけて、人間を作り出したという」


「人間が気によって産み出された......」


「うむ、人間や動物、そしてワシのような自然は、

 のちに仙人や霊獣となっていったが、

 その異形や力ゆえ、人間たちとうまくは行かなかった。

 それゆえ、仙境を作りそこにこもったのじゃ」


「それが仙境......」


「そう、だが仙人たちは、人間を仙境に連れてきてしまった。

 慈悲や虚栄心、傲慢などでな......

 しかし、心あるゆえごうからは逃れられぬ。

 それゆえ、それらのない真なる人、

 真人しんじんを目指した」


「それが真人しんじん......」


 灰混仙かいこんせんが呟く。


「だが、それも絵空事、

 生まれもったごうより逃げた所で、

 それは心を捨てると同義......」


(これどこかで......)


「もしかして......蓮曜れんようさんとは、

 あなたの弟子なのですか?」


 僕の問いに、

 龍漿仙りゅうしょうせんが驚いた声を出した。


「いかにも、ワシの弟子だ。だがなぜそれを」


「僕の先生である陸依りくいさんの師匠だったのです」


「そうか......ここもえにしか、

 それで蓮曜れんようは息災かな」


「いや、蓮曜れんようは死んだ......私が国からでたとき、

 あなたに化けた冥影仙めいえいせんに向かっていった。

 そして空から落ちるのをみた......」


 灰混仙かいこんせんはそう悔しそうに言った。


「そうか......あの子は心優しき子だった。

 だから、才能あっても仙人にはなれなかった。

 陽の気が強すぎ、陰の気をうまく使えなんだゆえに......

 しかしお陰で繋がった。

 これも縁か......冥影仙めいえいせんともな」


 それから龍漿仙りゅうしょうせんのスピードがあがる。


 すると、大地の果てに黒い夜のような空間が見えてくる。


「これが冥洞めいどう......」 


 中に入ると宇宙空間のように真っ暗な空間があるだけだった。


「確かに仙人以外はいれないな......

 あそこに大きな気が横に並んでいる!」


 こうがいう。確かに遠くに大きな気がたくさんある。


「うむ、あれが冥影仙めいえいせんに与し、

 玄陽仙げんようせんを、

 復活させようとしている者たちだな」


「大丈夫なのですか!」


 碧玉へきぎょくがいう。


「ワシの中に入っていれば気を完全に消せる」


 そういうと、少し止まり、僕たちは透明な龍の中に包まれる。

 その時、後ろから多くの気が近づいてきた。


「あれは!?命炎仙みょうえんせんたちか!」


 蒼花仙そうかせんがそういうと、

 前の仙人たちに後の仙人たちがぶつかっていった。


「今のうちに奥へと進むぞ」


 そのまま僕たちはその上を飛び、奥へと進んだ。

 さらに奥に進むと、真っ暗な空中にひとつの巨大な宮が見える。

 

「あれは!?」


「あれは陰陽宮いんようぐうこの世界の始まった場所だ......

 おそらくあの中に冥影仙めいえいせんがいる」


 そう龍漿仙りゅうしょうせんはいい、

 そのまま、宮の中へとはいる。

 何本もの巨大な白い柱のたつ通路抜けると、

 奥に大きな部屋があった。そこは天井がみえず、

 左右の壁も見えない。その中央に黒い服の男がたつ。

 そのそばには桃理とうりが倒れている。


「このまま、突っ込むぞい!」


 龍漿仙りゅうしょうせんがそういうと、

 僕たちは皆封宝具ふうほうぐを構える。

 龍は冥影仙めいえいせんに突撃し、

 降りた僕たちはおのおの攻撃を仕掛けた。


水如杖すいにょじょう!!」 


金漿棍きんしょうこん!!」


樹界剣じゅかいけん!!」


風殻槍ふうかくそう!!」


万象刀ばんしょうとう!!」


 衝撃が響くと、冥影仙めいえいせんが吹き飛ぶ。


桃理とうり!!」


 僕たちと灰混仙かいこんせんが、

 桃理とうりにかけよる。

 

「大丈夫だ......、眠っているだけだ......」


 ほっとしたように灰混仙かいこんせんが言った。


「ふふ、やはり来ましたね」


「!?」


 倒れた冥影仙めいえいせんがゆっくり起き上がった。

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