第45話 沙像仙《さぞうせん》

 僕たちは北の城につく。そこは古く石でできた城だった。 

 何かで削られた跡や、穴がそこかしこに空いている。 


「ここに、集まっているのか」


「大分古いな......もう外壁がかなり朽ちている。

 それにこの傷、刃や矢の跡か」

 

 僕とこうがそう話す。


「......何度も侵略を受けていたからな......」


 冴氷仙ごひょうせんは表情こそかわらないが、

 その言葉は悲しそうに聞こえた。


「でも、ここはそれほど豊かな土地でもない......

 なぜそんなに攻撃をうけたのですか」


「......何か不幸なこと、例えば飢饉や病があると、

 この地に住む者の呪詛などと決めつけ、その度攻撃を加えた」


「ひでえな」


「常にここの者たちに怯えていた......」


「それもある......自分たちがいずれ仕返しされるのではとな。

 または攻撃してきた自分達の行為に正統性を持つために、

 悪だと決めつけたか......だが....」


「だが?」


「......ここの者たちとて一方的にやられたいたわけではない。

 復讐と称して残忍な仕打ちを他の国の者に行った。

 迫害に関係のないもの者にたいしても......

 それが更なる報復を生んだ」

 

(被害者だからと自分達の横暴も正当化していたのか......)


「だから、あなたはここと外界を隔離した......」 

 

「ああ、もはや当事者が死んでいても、その者と関係ないものが、

 怒り、憎しみ、妬み、殺しあう。

 事実などもはやどうでもよい。

 相手をかばうものさえ、その標的としていったのだ......」


 冴氷仙ごひょうせんは憐れむような口ぶりでそう話した。


「それがまた起ころうとしているってことですね」


 僕がいうと冴氷仙ごひょうせんはうなづく。


「ああ、止めねば更なる連鎖が起ころう......」


「中にはかなりの人数が集まっている。

 人間とはいえ封宝具ふうほうぐを使われると厄介だ」


 こうの言うとおり、城の中に大勢の人間がいるようだ。

 封宝具ふうほうぐの気も感じる。


「仙境大乱のとき、の封宝具ふうほうぐか.....」


 冴氷仙ごひょうせんは呟く。


「人間はこうと僕の二人なら大丈夫ですが」


「いや、人間は俺がやる。それより沙像仙さぞうせんだ。

 今の俺では勝つのは難しい......なるだけ弱らせるが......

 あやつは......

 取りあえず人さえ止めてしまえば戦争は止められる」


 僕たちは城に入っていった。

 翔地しょうちで内部を駆け抜ける。

 天井のない奥の王座の間に、

 大勢の武具を身に纏う者たちが集まっていた。


氷洸鞭ひょうこうべん


 そう冴氷仙ごひょうせんが言い、

 二又の鞭を振るった瞬間、

 その場が凍りついた。人も壁も一瞬で氷の彫像と化す。


「なっ!これは」


「すげえ!ても死んだのか!」


「仮死状態だ......あとで解く」


 僕たちは驚いて呆然としていると、空から低い声がする。


「......冴氷仙ごひょうせん貴様か」


 空には巨大な虎にまたがり、金づちを持った大男がいる。


沙像仙さぞうせんもうやめろ......人間は戦えんぞ」

 

「なんの真似だ......我らの師を封印から解こうとするのに、

 なぜ貴様が邪魔をする......」


「やはり、玄陽仙げんようせんの封印を解くつもりか......

 そんなことをしてどうする」

 

「この仙境の地も、人間界も元は我ら自然の地......

 それを取り戻そうという、当たり前のことではないか」


(人間界も......それに自然の地)

 

「もはや話しなど無駄か」


「はなから無駄なこと」


 沙像仙さぞうせんは虎にのり、

 空からものすごい速さで降りてくる。

 

氷洸鞭ひょうこうべん!」


砂瀑槌さばくつい!!」


 冴氷仙ごひょうせんが鞭をふるうと、

 白い雪の波が沙像仙さぞうせんに向かう。

 そして沙像仙さぞうせんが、

 槌をふると砂の波が雪を防いだ。

 ものすごい衝撃がこちらにも及ぶ。


「くっ!やるぞこう!水の術だ!」


「ああ!!」


 僕とこうは空に左右に飛ぶ。


水玉瀑布すいぎょくばくふ!!」


水湧流波すいゆうりゅうは!!」


 僕たちは冴氷仙ごひょうせんの氷に、

 左右から水術をぶつける。


「ぐっ!」


 僕たちの水は冴氷仙ごひょうせんの雪と混ざり、

 砂を押し戻しは沙像仙さぞうせん雪に埋もれる。


「やりましたか冴氷仙ごひょうせん......」


「いや、まだだ......」


 雪の色がどんどん茶色に変わり固まっていく。


「くるぞ!!」


 茶色の雪がすごい勢いで盛り上がると、

 城を越える巨大な沙像仙さぞうせんとなる。


「なっ!!これは砂の巨人!?」


「あやつは砂の霊獣仙人だ......ここでは戦えん外に出るぞ!」


 僕たちは巨大な沙像仙さぞうせんから離れ、空に出た。


冴氷仙ごひょうせんあんなのどうやって倒すんだ!!」


 こうが叫ぶ。


「生物以外の霊獣仙人を倒すには気を全て失わさせるか、

 核となる気でできた小さな結晶を壊すしかない!」


「核......この巨人の中に、取りあえず攻撃を続けるしかない!」

 

 僕たちは術や封宝具ふうほうぐを使い攻撃を加える。

 だが砂はすぐに元に戻り、中までは攻撃をとおせない。


「くっ、だめだ、どんな攻撃も砂で阻まれる...... 

 もっと威力の大きな術でないと貫けない」


「無駄だ......我は自然の意思、

 ただ貪るだけの人間どもを排するは、自然の摂理......」


 巨人から声がする。


「......一度だけならあやつを貫けるが、場所がわからない。

 はずすわけにはいかん」


「やはり、場所を知るしかない......だけど、しるすべが......」


「......何、諦めてんの情けないわね」


 後ろをみると、

 ふらふらのとうりが葉っぱにのっている。

 

桃理とうりまだ戦えない!逃げろ!」


「ふざけないでよ、逃げられるわけないでしょ......

 ほっといたらまた人が死ぬのに......  

 冴氷仙ごひょうせん一度だけなら貫けるのよね......」


「ああ、だが場所がわからん」


「かまわないわ。からだの真ん中に放って、

 あとは私がやるから」


「だが......」


 桃理とうりの目は確信に満ちて見えた。


冴氷仙ごひょうせん桃理とうりに託しましょう!」


 僕はそう叫んだ。


「......わかった、確かにこのままではどうにもならぬな」


 冴氷仙ごひょうせんはそういうと、

 氷洸鞭ひょうこうべんを空に向ける。

 すると雪が空から降ってきた。


「こい!冴白狼ごひゃくろう!!」 


 そういうと、降った雪が多くの白い狼となる。


三咲みさきあれは何だ術か?」 


 こうが聞くと、懐のコマリが鳴いた。


「みゃう!」


「いや多分、霊獣だ!」


「いけ!冴白狼ごひゃくろう


 そう冴氷仙ごひょうせんが命じると、

 狼たちは巨人へと向かっていく。

  

冴氷仙ごひょうせんの霊獣か......

 それでは核などに当たらぬ。

 この身体を貫くことすらできぬわ」


 そう沙像仙さぞうせんは笑った。


 しかし、その狼たちはくっつき、

 一つの大きな狼になっていく。


「何!?だが核を撃ち抜くことなどできぬ!」


「それはどうかしら!象異しょうい!!」


 桃理とうりがそう叫んだ。


 すると狼はさらに大きくなり巨人と同じぐらいになった。


「なっ!!」


 その狼は空を駆けると、

 回転しながら巨人を貫き、その身体を粉々に粉砕した。


「がああぁぁぁぁあ!!!」


 沙像仙さぞうせんの叫ぶ声が、

 散っていく砂と同じように消えていった。

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