第44話 氷洸鞭《ひょうこうべん》

 鞭を手に入れた僕らは、

 冴氷仙ごひょうせんの洞窟へと戻る。

 

 眠る冴氷仙ごひょうせんに僕は触れ気を通じさせる。


封宝具ふうほうぐを持ってきました)


(わかった......)


 そのとき、冴氷仙ごひょうせんの鞭が光り輝く。

 

「この気は!?」 


 とてつもなく大きな気が集まると、

 冴氷仙ごひょうせんは目を覚ました。


「......すまなかったな......少しやすめ」


 桃理とうりにそう言うと、

 桃理とうりは眠りに落ちた。


桃理とうり!」


「問題ない、俺に気を与えたため、かなり気を消費したがな。

 それを返した、すこし眠れば治る......それより」


 僕たちが捕縛して連れてきた仙人に目をやる。


「......そいつは硝映仙しょうえいせん......

 沙像仙さぞうせんの弟子か、

 よくお前たちだけで倒せたな」


「何とかな......それより、沙像仙さぞうせんを止めて、

 戦争をやめさせないと」


 こうがいうと、冴氷仙ごひょうせんはたちあがる。


「その必要なら、もうないかもしれん......」


 そういって外に出た。

 僕たちは真意を図りかねて着いていくと、

 洞窟の外の吹雪が止んで青空がでている。


「なっ!吹雪がやんでる!?

 冴氷仙ごひょうせんの術ですか!」


 驚く俺たちに冴氷仙ごひょうせんは静かに答える。


「逆だ......この国の雪は俺が、

 この氷洸鞭ひょうこうべんで起こしていたものだ......」


「なんだと!!それはどういうことだ!!」


 怒るこうを僕は制した。


「どういうことですか......冴氷仙ごひょうせん


「......仙境大乱のあと、地上も混沌とした......

 仙人の残した封宝具ふうほうぐを使い大乱となったのだ。

 そして、さまざまな土地から、

 ここに逃げてきたものたちがいた。

 彼らは国を失い、いきばの失くなったものたち......

 ここのものたちは幾度も虐殺の浮き目に遭った......」


「それでこの地を隔離した......」


「そうだ......住める場所だけ雪が及ばぬように、

 外界から襲われぬように雪で守っていた。」


「......だが、人々は飢えてんだぞ」


 こうが納得いかないよう言った。


「......そのままの人間が増えても、

 満足に食べられているはずだった......

 おそらく外界から入ったものたちがいるのだろう......

 この極寒の中......外から入るのは人間には難しいはずだが......」


 そう冴氷仙ごひょうせんは目を閉じいった。


(かまくらを作ったときの人骨か......

 死ぬことさえ覚悟してまで、

 ここに来ざるを得なかったということか......)


「しかし、もう氷洸鞭ひょうこうべんは解いた。

 これで外界と戦争をしなくても、畑などは増やし、

 飢えはなくなろう」


「確かに、戦う理由がなくなれば戦争は止められるか......」 


「......ただ外界はどうなっている?戦は......」


「一応人間たちは戦争はしていません......

 むしろ仙人と人間の関係が危うくなってますが」


 僕は今までの状況を詳しく話した。


「なるほど......病か、香花仙こうかせんならば作れるな......

 しかし国を滅ぼし封宝具ふうほうぐを奪った仙人......

 何のために、まさか......」


「何かご存知なのですか......」


 僕が聞こうとしたとき、早受さじゅさんが走ってきた。


三咲みさきさま!!」


「どうしたの?早受さじゅさん」


「はぁ、はぁ、そ、それが......

 北の城跡に国中の人たちが集まって戦をするって!」


 肩で息をしながら、早受さじゅさんはいう。


「えっ!?でも、もう戦う必要は無くなったのに!」


「......それが、沙像仙さぞうせんという仙人が、

『雪がなくなれば、外界の者たちが、

 ここの土地を狙って攻めてくる。攻められる前に攻めろ』

 そう言って、そそのかしてるみたいなんです......」


「......戦争を起こさせるわけにはいかない......

 だが沙像仙さぞうせんと戦うには、

 私の力は完全に戻ってはいない。お前たちの力借りるぞ......」


 冴氷仙ごひょうせんはこちらをみていった。


「おう!!」


「ええ、それは......ですが、なぜここまで、

 沙像仙さぞうせんは、

 戦争を起こしたがっているのでしょう?」


「なぜって三咲みさきそりゃ人間を嫌ってるからだろう」


「こんなところで戦争させても、

 人間がいなくなるわけではないし」


「......そうだな......やつを甦らせようとしてるのかもしれん」


 冴氷仙ごひょうせんは呟くようにいった。


「やつ?」


「......ああ、玄陽仙げんようせんだ」


「倒された二尊仙の一人......」


「そんなことが可能なのか!?」


「ああ、二尊仙は不死、今は封印されているだけだ。

 ......ただその封印は普通解くことはできない。

 解く方法はひとつのだけ、その封印を解ける刀、

 万象刀ばんしょうとうのみ」


「それで万象刀ばんしょうとうが盗まれた......

 でも、それとこの戦争と何の関係が......」


万象刀ばんしょうとうの破壊の力を使うには、

 とてつもない気の力が必要なのだ......」


「それって陰の気を集める陰湖盃おんこはいがあれば、

 使えるってことじゃないのか!?」


 こうはこちらをみていった。僕は頷いた。


「ああ、陰の気は負の感情、戦争が起これば大量に集められる......

 まさか世鳳せおう曇斑疫どんはんえきは!?」


「......そうだ、おそらく陰の気を集めるために、

 仕掛けられたものだろう......」


 冴氷仙ごひょうせんは空をみていう。


「それが沙像仙さぞうせんが起こしたことなのですか!」


「......わからん、ただ今はあやつを止めるのが先だ。行くぞ」


 そういった冴氷仙ごひょうせんと僕たちは、

 沙像仙さぞうせんのいる北の城跡に向かった。

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