第38話 命炎仙《みょうえんせん》

(隠れても無駄か)


 僕たちは姿を現した。


「あなたが灰混仙かいこんせんですか」


「......お前......」


 灰混仙かいこんせんはこちらをみて、

 一瞬驚いたような顔をした。

 

「一体あなたの目的はなんなんです」


「......お前たちには関係ない去れ......」


「関係ないわけないじゃない!あんたのせいで、

 仙人が疑われてんのよ!」


 桃理とうりが叫ぶと、

 じっと灰混仙かいこんせんはこっちを見つめている。


香花仙こうかせんを殺したり、

 曇斑疫どんはんえきを流行らせたのも、 

 その為なんですか......」


香花仙こうかせんが死んだ......」


 灰混仙(かいこんせん》はなにかを考えている。 


(もしかして知らないのか!?)


「......曇斑疫どんはんえき......あれを流行らせたのは、

 香花仙こうかせんだ」


 黙っていたが、口を開くとそう静かにいった。


「なっ!?」


「嘘おっしゃい!!そんなことなんで十二大仙人がするのよ!」


「......お前たちがどうとろうとかまわない。だが事実だ......」


「あんた!」


 僕は食って掛かろうとする桃理とうりを制した。


「なぜ香花仙こうかせんを殺したんですか」


「......殺してなどいない......」


 静かに灰混仙かいこんせんは答えた。   

 

(やはり殺してない?

 蒼花仙そうかせんはみたといっていたのに......)


「さっさと去れ......お前たちでは私に勝てはしない」


 手にもった日本刀のような長い刀を抜いた。

 

(ダメだ逃げないと!力の差が歴然だ!) 


 桃理とうりもそれがわかっているのか、

 羽衣を強く握っている。

 その時、洞窟内に暖かい風がふいてくると、

 一つの大きな炎が目の前にとんできて落ちた。


「えっ?」 


 それは大きな赤い鳥で、上から長い赤い髪の女性が降りてきた。


「何者だ......」


 灰混仙かいこんせんは女性を見据え、刀を構える。


「あら、あら、あなたもここにいたのですね桃理とうり


 この場に似つかわしくないおっとりした声で、

 その女性はそう言った。


命炎仙みょうえんせんさま!」


 桃理とうりが嬉しそうに叫んだ。


「......命炎仙みょうえんせんだと」  


 命炎仙みょうえんせんの前で、

 緊張した面持ちをした灰混仙かいこんせんは、

 微動だにしない。

 動かないというより、動けないという方が正しいのだろう。


(警戒してるのか、いや圧倒されてるのか、

 ......確かにこの命炎仙みょうえんせんという女性、

 とんでもない大きな気を持っている)


「あなたですか......

 仙人を排斥しようとする者に力を貸している仙人は」


 命炎仙みょうえんせんは優しく問う。


「それがどうした......」


「いますぐにお止めなさい。

 危険な天仙たちが降り立ち、

 人間に危害を加えるかもしれない」


「それはできない......あいつを見つけ倒すまでは......」


「あいつ......」


「それは、世鳳せおうを滅ぼした仙人のことですか!!」


 僕がそう聞くと、灰混仙かいこんせんは目をつぶる。


「この国を滅ぼした仙人を......

 だが、その者が何かを画策するために、

 あなたを利用しているのだとしたら」


 命炎仙みょうえんせんはそう静かにいった。


「なんだと......どういうことだ」


世鳳せおうにあった封宝具ふうほうぐ

 陰湖盃おんこはいは、陰の気を無尽蔵に貯める道具、

 大きな戦いが起これば大量に陰の気が集まる......」 


「それを......まさか」


 灰混仙かいこんせんは一瞬考えるよう黙ると、

 刀を納め翔ぶようにその姿を消した。


「あっ!逃げる!逃げましたよ、

 命炎仙みょうえんせんさま!」


「いいのです。取りあえずここの人間を留めるのが先決」


 命炎仙みょうえんせんはそういった。

 こちらをしげしけみる。


「あらあら、あなたは......桃理とうりの恋人さん?」


 僕をみて命炎仙みょうえんせんは首をかしげた。


「ち、ちが、ちがいます!命炎仙みょうえんせんさま!

 こいつは三咲みさきただの......」


 桃理とうりが両手をふりながら慌ててそういった。


命炎仙みょうえんせんさま。

 すこしお聞きしたいことがあります。

 まず僕の知っていることをお話しします」


 僕は今までの経緯と状況について、

 命炎仙みょうえんせんに全て伝えた。


「......なるほど、よくわかりました。

 香花仙こうかせん曇斑疫どんはんえきを......」


 そういって命炎仙みょうえんせんは悲しそうな顔をした。


「本当に香花仙こうかせんが、

 曇斑疫どんはんえきを流行らせたのでしょうか」


「わかりません......ですが、

 彼が、灰混仙かいこんせんが、

 嘘をつく必要性は感じません。

 ......ですが三咲みさき、今はそのことより、

 急いでやってもらわなければならないことがあるのです」


「やってもらわなければならないこと?」


「ええ、北の国、凱朋がいほうに少数ですが、

 天仙たちが降り立ち、何かを企んでるようす、

 急いで桃理とうりと向かい調べてください。

 もし、どうしても力が必要ならば、冴氷仙ごひょうせん

 訪ねるように」


 お願いしますといわれ、それを了承すると、

 命炎仙みょうえんせんは、

 赤い鳥と共に炎となって翔び去った。


(何かとてつもないことが、この世界で起こってる気がする)


「しょーがないわね!行くわよ!三咲みさき!」


「ああ、あっ!こうは大丈夫かな!」


 洞窟をでると、こうが落ちていた武具を拾っている。


「大丈夫だったこう!」


「ん、ああ、こいつらの封宝具ふうほうぐのせいで、

 かなりやばかったが、突然現れた炎で全員吹き飛んで。

 何とか助かった。そういや洞窟に飛んでいったけど、

 大丈夫だったか?」


「それより行かないと行けないところがある。

 ......後で説明するから行こう!」


 僕たちは封宝具ふうほうぐさくの王宮に預け、

 凱朋がいほうの国にとんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る