第37話 排仙党《はいせんとう》

 僕たちは桃理とうりについて町外れにきた。

 そこに粗末な家がたっていて、

 小さな畑を老人が一人耕していた。


徐荘じょそうじいちゃーん!」


 桃理とうりが呼び掛けるとこちらに気づいた。


「おお!桃理とうりさま!」


 老人は徐荘じょそうといい、

 国が滅ぶ前に世鳳せおうの学者だった。

 何度かこの国にきたときの知り合ったという。

 そのまま徐荘じょそうさんの家に招かれる。


「そうですか......曇斑疫どんはんえきとは......」


「じいちゃん、私たちを襲ってきた奴らのこと知ってる?」


 桃理とうりが聞くと、

 腕組みをして徐荘じょそうさんは答える。


「おそらく排仙党はいせんとうでしょうな......」


「どうしてそう思うのですか?」


 僕がそういうと徐荘じょそうさんは目を閉じる。


「あれらの多くはここの生まれのものなのです......」


「生き残りってことか」


 こうが聞いた。


「はい......七年前この王都が滅ぼされたとき、

 意味がわからず恐れ、

 ほとんどの者が国を出ていきこの国は滅びました。

 たけど旅や商売で、この国にいなかったものたちがいました。

 かれらは仙人を強く憎しみや恨みで、

 仙人を排除しようと徒党を組んで排仙党を作ったのです。

 今や他の国のものたちも加えおおきくなってるそうです」


「......なぜこの町が滅ぼされたか、検討はついていますか」


 僕が聞くと徐荘じょそうさんは、

 目をつぶり呟くように話し出した。


「それは......おそらく封宝具ふうほうぐではないかと」


封宝具ふうほうぐですか?」


「ええ、王都が滅ぼされたとき、王宮の宝物庫から、

 いくつかの封宝具ふうほうぐが、なくなっていたそうです。

 おそらく、その封宝具ふうほうぐを、

 狙ったのではと私は考えています」


「確かに世鳳せおうはこの仙境せんきょうでも、

 かなり古い国だものね。

 とても希少な封宝具ふうほうぐが、

 眠っててもおかしくないけど、

 盗まれたものは分かる徐荘じょそうじいちゃん」


「ええ古来より伝わる至宝がなくなっております。

 一つは陰の気が貯められるさかずき

 陰湖盃おんこはい

 そしてもう一つはこの世の全てのものを切ることができる刀、

 万象刀ばんしょうとう


「それを奪うために王都を滅ぼしたのか......

 他の例えば、姿を隠す布なんかは......」


影隠套えいいんとうという、

 姿を隠す衣はたくさんありました。

 かつての仙境大乱で仙人によりもたらされたものです」


「襲ってきたやつが持ってたの」


 桃理とうりがそういうと、

 徐荘じょそうさんはうなづく。


「残っていた封宝具ふうほうぐは彼らに盗まれましたから」

 

 そう残念そうに語った。


 徐荘じょそうさんの家からでて、

 僕たちは灰混仙かいこんせんを追う。


世鳳せおうを滅ぼしたやつは、

 持っていった封宝具ふうほうぐで、

 何かしようとしてんのか」


「理由もなく集めてる訳じゃなさそうね。

 陰の気を貯められるさかずきと全てを斬る刀、

 何のために使うの?」  


桃理とうりもわからない?」


 僕が聞くと、桃理とうりは首をふる。


命炎仙みょうえんせんさまなら、

 わかるかもしれないけど......とりあえず今は、

 灰混仙かいこんせんを見つけるしかないわね」  


 一日で、成威せいいから離れた山岳地帯についた。

 桃理とうりが、術を使うと指の先の炎が揺れずに止まる。


「......ここよ。この山だわ。炎の動きが止まった」


 ゆっくりあるくと、山の中腹まで登ると、

 そこから見える崖下の方に洞窟のようなものがあり、

 その前に武具をまとった者が大勢たっていた。


「あれは人間か、こんなところにいるってことは、

 どこかの兵士じゃないな。排仙党か」


「ああこう、それにここにいるってことは、

 やはり排仙党と灰混仙かいこんせんは、

 繋がっているということだ」


「もう三人で中に入って全員倒せば終わりじゃない」

 

「いいや、相手は姿を隠すし、 

 他の封宝具ふうほうぐも持ってる。

 不用意に近づけば人間だとしても遅れをとりるかもしれない。

 それに仙人もいるならもっと厄介だ」


「だな。

 封封具ふうほうぐを扱えるだけで、普通の人間以上だし、

 持ってる封宝具ふうほうぐの力も未知数。

 しかも仙人の数も一人とは限らねえ」


 桃理とうりか何か言いたそうにしているが、

 わかっているのか黙って聞いている。


「だけど調べないと......あれを試してみるか」 


 しばらくして僕たちは三人で洞窟の前に降りた。

 すると武装した者たちが周囲に集まってくる。


「な、何者だ!」


「こいつら仙人か!」


成威せいいにいたっていう仙人じゃないか!」


「そうだ三人の仙人だといってたな!」  


 炎の剣や氷の鎗、浮いている戦輪、

 水の弓などその場の全員が、特殊な武具を構える。


封宝具ふうほうぐか!)


 こう金漿棍こんしょうこんを地面をつくと、

 金属の高い壁が地面から飛び出した。何人かが吹き飛ぶ。

  

「ぐっ!仙人が攻めてきたぞ!!」


 そう大声で一人が叫ぶと、

 洞窟内から更に武装した者が大勢でてきた。


「さあ、今のうちに」


「わかったわ......」


 洞窟の側に隠れていた僕と桃理とうりは、

 二人で影陰套えいいんとうをまとい洞窟に入った。

 

 洞窟は松明が等距離にたかれていて、ひんやりとしている。

 皆前にでていったのか人の気は感じない。


「ミサキあれ分身なの?」


 桃理とうりが聞いた。


「うん、かなり気を使っても、まだ二体しか作れないけど......」


 そう、こうのそばにいた僕と桃理とうりは、

 僕の作った分身だった。


「確かに分身を作れるのはすごいけど......

 あれ何よ!あたしはあんな顔じゃないわ!!

 あんたどんな目をしてんの!」


「仕方ないよ。

 まだ顔を正確に作れないから、髪の毛で隠して作ってるんだ」


 プリプリ怒る桃理とうりをなだめながら、洞窟を進む。


「きゃう!」


 懐のコマリが鳴く。


「どうやら先に人がいるようだ」


「ええ、注意してみるとほんのすこし気を感じるわね......」


「ああ、影陰套えいいんとうを身に付けている者がいる。

 ゆっくり近づこう」


 僕たちが洞窟をすこし進むとより強い光が漏れてくる。

 そこは広くなっており、奥にはさらに続く穴がある。

 人は見えないが、気の気配はしている。


「姿を隠してるのか......」


「私たちが攻めてきたからね。しっ、声が」


「三人の仙人、成威せいいにいた奴らか」  


「なぜ、ここがわかった、まさか灰混仙かいこんせんか!」


(やはり灰混仙かいこんせんが関わっているのか......)


「だから、仙人など加えるべきではなかったのだ」


「だがやつのお陰で気の使えるものが増えた。

 それに仙人どもを排除して不要になれば......」


(完全に仲間とかではなさそうだな......)


「それにしても前にでた奴らが帰ってこない

 ......やはりここまで来るか」


「三人いるからな......だがここに近づいたとき、

 見えないうちに後ろに回り、首を跳ねればいい」


 そう話す声が聞こえる。


(気を使える程度の人間か......それほどの力はないな)


「位置がわかりづらいから、ここら一体を破壊するわよ」


「いや、僕に任せて」


 僕は水如杖すいにょじょうを握る。


 ビシャ


「何だ、水溜まり?この洞窟が雨漏りなんて......動けない!!」 


「なんだこれは!?ぐふっ!!」


 僕は動けなくなったものたちを、次々と気絶させる。


「ふぅ、これで十人全員か......」 


「これ気を固めてるの?なんの術?」 


「術じゃなくて、僕の封宝具ふうほうぐ

 水如杖すいにょじょうの力だよ」 


 僕は歩きながら説明する。


「自在に気の形をかえられる?陰の気を使わずにすごいわね」


「その羽衣みたいなのも封宝具ふうほうぐだよね」


「ええ、重紗衣じゅうしゃえ

 重さをかえられるうすぎぬの衣よ」


「えっ、大きくなってなかった?」


「あれは私の仙術、象異しょういよ。

 私しか使えない術なんだから」


(独自の術を使えるのは、

 かなりの仙人だって未麗仙みれいせんが言っていたな)


「すごいね桃理とうりは」

   

命炎仙みょうえんせんさまの弟子だから、

 まあ当然だけど」


 そう桃理とうりは胸を張っていう。


「あそこ、だいぶ奥から大きな気を感じる」

 

 通路の奥からとても大きな気を感じた。


「ええ、かなりね......これは私たちより大きい」 


「......とりあえず、姿を隠して近づこう」


 奥に進むと、階段がある祭壇のような場所があり、

 その階段の上でこちらを向いて座る男がいた。


「......何者だ」 


 その銀髪の男は目を閉じながらそういった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る