第36話 世鳳《せおう》

 世凰せおうの王都、

 成威せいいのあったところに降り立つ。

 

「廃墟だな」


「爆発でもあったようだね」


 そこは多くの建物が崩れ、廃墟となっていた。

 昔ほ美しかったであろうことが、

 町の配置や残った家の壁の色彩などからみてとれる。


「あれ?桃理とうりは......」


 桃理とうりは町の中たたずんでいた。


「さっき、灰混仙かいこんせんに、

 なまりがあるっていってたけど、もしや......」


「ええ、私もこの世凰せおうの生まれだから......」


 桃理とうりが残っていた壁をさわると壁は崩れた、

 そしてゆっくり話し始める。


「......私は爆発があったあと、この廃墟のなかから、

 命炎仙みょうえんせんさまが見つけて、

 弟子にしてくれたの」


 そう沈んだ声で言う。


灰混仙かいこんせんは同郷かもな」


「それでも......命炎仙みょうえんせんさまが治める、

 私の国に、危害をくわえたなら許さない!

 炎はこの先を指してるわ!行くわよ!」


「みゃう!」


 眠ってたはずのコマリが鳴いた。

 

(この気は......)


「気づいてる?」


「ああ、コマリの鳴き声で気づいた......」


「ええ、何者、ここまで気づかないなんて......

 でも仙人じゃないわね......」


 複数の人間に囲まれているようだ。 

 だが周りに人の姿は見えない。

 

(コマリにいわれるまで気づかなかった......

 気を感じづらい、仙人でもない気を遣える人間?)


「姿を見せなさい!わかってるんだから!

 でてこないのなら!」


 そう桃理とうりがいうと、

 着物の上からまとっていた羽衣が大きくなっていく。


封宝具ふうほうぐ重紗衣じゅうしゃえ!!」


 その衣がフワリと広がり空をおおうと一気に地面に落ちる。

 

 ドゴオオオン!!


 轟音が響き、地面が揺れた。


「うわぁ!!」


 姿の見えなかった者たちが叫び、逃げる足音がする。

 その一人が転んだのか黒い衣を落とすと突然姿を現し、

 こちらをみて怯えながら逃げていった。


「逃がすと思ってるの!」

  

「待って!」


 僕が桃理とうりを止める。


「何よ!逃げちゃうでしょ!」


 僕は落としていった大きな衣を拾った。

 

「なんだそれは三咲みさき?」 


「これを落としたとき、姿が見えたんだ」


 僕が気を流すと、その黒い布は透明になった。


「これなに!?」


「姿を消す封宝具ふうほうぐだね」


 桃理とうりに僕はそう答えた。


「つまり、仙人か道士が関わっている......

 灰混仙かいこんせんなのか」


 こうはそういって考えている。


「それにしても、

 あれだけの封宝具ふうほうぐを作るなんて......

 元々どこかにあったものを手に入れたのかしら、

 でなければ複数の仙人か道士が関わってるってこと、

 道士になれるほどの者がそれに荷担するなんて......」


 桃理とうりが首をかしげた。


封宝具ふうほうぐってそんなに珍しいの?」    


「ああ、気を自在に扱え、

 更に使用者の気で扱えるように作るわけだからな。

 時間も労力も途方もなく必要だ。

 俺の金漿棍きんしょうこんは、

 元々あったものをそうが形だけ変えただけだからな」


「なるほど、そんなに希少なのか」


 僕は水如杖をみて、

 公尚こうしょうさんと

 宗清そうせいさんを思い出した。


「まあ、炎の印はあるから、ゆっくり追いましょう。

 ......それより、さっきの見せて」


「ん?さっきの」


「ほら、丸いかわいいの」


「ああ、コマリのこと」


 僕がコマリを懐から出す。


「きゃう?」


「かわいい!!これ霊獣れいじゅうよね!」 

 

 コマリをだきながら、桃理とうりが目を輝かせる。


「うん、未麗仙みれいせん先生の所で、

 魔獣を霊獣れいじゅうに変えたんだ」


未麗仙みれいせん!?それって十二大仙」


「ああ、僕の師匠だよ」


「それにしても、たった二年足らずで、そんな力を持つなんて、

 三咲みさきはすごいな」


 こうがいうと、桃理とうりが驚いている。


「二年!? くぅ、私ですら、

 まだ霊獣れいじゅうを作れないのに、

 ずいぶん生意気ね......」


 なぜか悔しそうにこちらをにらんでいった。


「でもコマリは気の感じないあの人たちに気づいていたな」


「元々気から生まれた霊獣れいじゅうは、

 私たちより気を感じやすいのよ。

 だから、少ない気でも感じられたのね。ねー」


 コマリを撫でながら桃理とうりがそういうと、

 きゅーんとコマリは嬉しげにないた。

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