第32話 山覚《さんかく》の条件

 業火が収まると、そこには焼けた鉄の塊が地面に残っていた。


三咲みさきどの、これは一体......」 

 

 蒼花仙そうかせんはそばによって聞いてきた。


「腐食しない軽銀けいぎんと、

 流鋼仙りゅうこうせんはいっていました。

 それはおそらくアルミニウムでしょう。

 その粉と酸化鉄の粉で還元反応が起こって、

 高熱が発生したんです」


「それで私にわざと脆い酸化鉄を作るようにと......」 


「俺の方は囮か」


 そういって紅花こうかさんが近づく。

 

「ええ、気づかれると、対策をとられますから」


 その時、僕たちの周りを衛兵たちが囲んだ。

 

「待て!」


 一人の重臣らしき、髭の男が衛兵を止めた。


「私は山覚さんかく。この国の大臣の一人です。

 あなた方は、仙人さまだったのですね。

 一体何が起こっているのか我々にご説明願えますか......」


 山覚さんかく大臣は、

 困惑している様子だったが毅然きぜんとそう聞いた。

 僕たちはこの件について、話し聞かせた。


「ふむ......なるほど、そういうことか。

 この国で発生したあの曇斑疫どんはんえきを、

 調べていたと......

 確かにあれは仙人が関わっていると噂にはなっている......」


山覚さんかくどの!そのようなことより、

 この紅花こうかという者を捕え刑に処さねば!

 王を殺害し、この国を混乱させようとしたのだぞ!」


 他の重臣が詰めよる。

 その言葉に山覚さんかくは目を閉じている。


「............」


「別にかまわん。どちらにせよ、生き延びるつもりはなかった。

 だが、あの地下区画を封じるのは止めると約束しろ。

 でないなら俺は外の連中の攻撃を止めない!」


 そういって紅花こうかさんは樹界剣を握る。

 

「待ってください!山覚さんかく大臣、

 紅花こうかさんを捕えるのは止めてください!

 そんなことをすれば、外のものも地下に残ったものたちも、

 何をするかわかりません!」


 僕がそう止める。


(このまま、紅花こうかさんが捕まり処刑されれば、

 また反乱が起こって大勢死ぬ!)


「なりません!いかに仙人さまといえど、

 この国への反逆者を許すわけには参りません!」


 そう重臣たちは口々にいった。


「待て」


 山覚さんかく大臣は重臣を止めた。


「確かに紅花こうかは王を討とうとした。

 しかしその王はすでに、

 流鋼仙りゅうこうせんに殺されていた。

 その流鋼仙りゅうこうせんを止めたのはこの三人だ」


「しかし、このまま許すことはできん!

 罪は罪!これを許せば今まで作った国の権威が失われる!!」


 重臣は引き下がらない。


「無論、罪は罪、ゆえに仙人さま。

 紅花こうかは国を追放することで、

 代わりにこちらに留まってはいただけないか」


 山覚さんかく大臣はそう交換条件を出してきた。


「何をいう!山覚さんかくどの!!」


 重臣たちは受け入れられず騒ぎ立てている。  


「では皆に問う!今我が国には王はいない!

 紅花こうかを罰し、

 反乱がおこれば国中に広まるかもしれぬ。 

 その上、他国が攻めてきたら、どうやってこの国を守れよう。

 仙人さまにいていただく以外に方法はあろうか!」 


 山覚さんかく大臣ががそうみんなに問うと、

 みんな黙ってしまった。


「......ということだ。紅花こうかは国外追放、

 代わりに仙人さま。新王を擁立し体制が整うまで、

 この国にご助力くださいますな」


 そう山覚さんかく大臣が迫ってくる。


(仕方ない......)


「わかり......」  


「では私が紅花こうかの代わりに、この国にいるとしよう、

 ならばいいか」


 僕がいう前にそう蒼花仙そうかせんは前に進み出た。


そう......お前」


「......お前の代わりに、地下の彼らを見守ってみよう」


 蒼花仙そうかせんはそういった。


 それから三日後、

 僕と紅花こうかさんは王都からでようとしていた。


「すまぬな紅花こうか我らも王をいさめはしたが、

 前王の頃から、やることに逆らうと重罰を課されるため、

 止めることはできなかった......

 それで王のやることを盲従するのが、

 正しいと自らに、思い込ませていたのだ」


 そう山覚さんかく大臣は紅花こうかさんに謝る。


「しかし、まさか曇斑疫どんはんえきにかかったものを、

 地下区画へと追いやっていたとはな......」


 その話を知らなかったようで驚いている。


「もう、そんなことはかまわねえ、

 それよりあの地下区画のあいつらを助けてくれるんだろうな」


「もちろんそれは約束しよう。

 もう封印はといて、自由に歩けるようにした。

 禁止事項も撤廃している」


「私が見守っているから問題はない」


 蒼花仙そうかせんがそういう。


そうすまなかった......」


 紅花こうかさんはそういって謝る。


「......かまわないさ、私の贖罪のようなものだ。

 この国を捨てた私のな」


 そう蒼花仙そうかせんはいう。

  

三咲みさきどの、

 紅花こうかのことよろしくお願いします」


 蒼花仙そうかせんが頭を下げる。


「やめろ!なんか恥ずかしいだろそう!」


 そう紅花こうかさんが照れると、

 蒼花仙そうかせんはここに来て始めて笑った。


「大丈夫です。一緒に灰混仙かいこんせんを探しますから」

 

 僕はそう言うと、紅花こうかさんと共に歩きだした。

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