第19話 金白仙《こんびゃくせん》

「仙人とはいえ、

 あなたの期待しているような人物ではないですよ。

 本当によろしいのですね......」


 そう真剣な表情で年押しされて、了承すると、

 師である金白仙こんびゃくせんさんが、

 よくいるという町に向かう。


「ここは......」


 その町に夜ついた。そこは艶夜えんやという町で、  

 大勢の人々が行き交い、夜なのに並んだ店の明かりが、

 煌々こうこうと昼のように輝いている。

 いわゆる歓楽街だった。


「私の師は変わり者で、仙人なのに町によく現れるのです。

 修行もろくにせず遊び呆けて......」


 そう言って碧玉へきぎょくがため息をつくと、

 ある店から男が、店員らしきものにつまみ出されていた。


「帰れ!もう金もないお前には用はねえ!

 借金が返せたら遊ばせてやる!」


「金なら払うと行っているだろうが!

 ケチケチせずに飲ませろ!」


 金髪の白い肌のその男は、酒を飲んでいるのか、

 何か呂律の回らない言葉でそう言っている。


(白人か、あの人......)


「うるせえ、さっさと金を手に入れてこい!」


 そう言っていかつい男たちに足蹴にされている。


「止めよ!」


 碧玉へきぎょくが今まで見せたことのない顔で、

 酔った男を蹴る男たちを一喝した。


「なんだてめえは!?」


「こいつはうちに借金もあるんだ!

 どうしようがこっちの自由だ!」    


「お金か......」


 碧玉へきぎょくは懐から、

 一万貴の硬貨を出し差し出した。


「これで足りるか」


「はっ!一万貴!?もちろんでございます!」


「この男をもらっていくよ」


「へい、どこへなりとも、どうぞお好きに」


 そういかつい男たちは態度を豹変させ、

 ペコペコと碧玉へきぎょくに頭をさげる。

 碧玉へきぎょくは、

 店の前で眠った男を引きずり連れてきた。

 

「ま、まさかその人......」


「......行きましょう」


 そう碧玉へきぎょくが僕の言葉を遮り、

 酔って眠る男を肩に担ぐと歩きだした。

 僕は黙って後をついていった。


 町の宿に着くと二階の部屋に入った。


「師匠!起きてください!」


 碧玉へきぎょくは酔って寝ている男に呼び掛け肩をゆする。


「......おお、へきか、ああすまん、金貸してくれ」

 

 起きぬけにそういった男から、

 碧玉へきぎょくは手を離した。

 男はそのまま床に頭をぶつける。


「痛い......何をするんだへきよ」


「何を、ではありませんよ!

 毎日毎日、修行もせず!飲み歩き遊びあるき......

 それでも仙人なんですか!」

 

「仙人など何の意味もない......しょせん力を持つものにすぎん」


 けだるそうに横になりそういった。


「ん、この気?なんだお前は仙人か......」

 

「は、はい」


「この方は、三咲みさきさまと言われます。

 師匠に会わせて欲しいと言われ、紹介しに参りました。

 後悔していますが......」


 そう深いため息をつく。


「で、何用だ。三咲みさきとやら、金ならないぞ」


「いえ、そういうことでは......

 実は仙人として、何をすべきか分からないため、

 旅をしているのですが......」


 僕は人間として死んだこと、

 この仙境せんきょうに転生したこと、

 それらを金白仙こんびゃくせんさんに伝えた。


「......昇天か......」


「ただ意味もなく死んだあと、

 この仙人としての力を得たとは思えないんですが、

 金白仙こんびゃくせんさんは、

 一体どう思っているんですか」


「さんなどいらん。で、仙人になる意味とかいったっけか?

 それを知ってどうする?」


「どうする......ですか?」


 頭をかきながら、

 こちらを眠そうな目で見ている。


「仮に仙人になることに意味があったとしてだ。

 それがお前の意思や信念と異なっても、

 仙人としての意味を優先するのかと聞いている」


「それは......」


 その心を見透かすような目にみられ僕は言葉がでない。


「俺ならそんなものは興味ないがな......」

 

「ではどうして金白仙こんびゃくせんは、

 仙人になったのですか?」


「......そうだな。若かったからだろうな......」


 そういうと窓から暗い星のない空を見ている。


「若かったとはどういうことですか?

 元々師匠はかなり位の高い仙人でしょう?」


 碧玉へきぎょくはそう言って、

 金白仙こんびゃくせんに問う。


「昔のことだ......仙人など下らん、やめてしまえ」


 そう言って横にゴロンと転がるとイビキをかいて寝始めた。

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