第18話 碧玉《へきぎょく》

 僕は自分が仙人として何をすべきかを知るため旅にでた。

 そして汀涯ていがいという国に入った。

 ここは森が多く、近くに海もあり、畑などに実りもあり、

 豊かな国のようだった。

 

「ついでに灰混仙かいこんせんのことも調べよう。

 ん? あそこで人が集まっているな」

 

 街道沿いに大勢の旅人が集まっている。


 近づいてみると、みんな街道の横の崖下を覗き込んでいる。

 

(なんだ? 下から大きな気を感じる)


 覗くと、下の沢で、

 大きな双頭の四腕の猿と女の子が戦っていた。


(あれは魔獣と人!? 助けるか!?いや、あの動き......) 


 その緑の髪の女の子は、軽業師のような動きで猿を翻弄し、

 そして槍を軽く振るうと猿の首を跳ねた。  


「すげえ!岩呑猴がんどんこうをやりやがった!」


「ああ!しかも簡単に!」


「これでこの街道も安心になるな!」


「さすが道士さまだ!」


「あれはやっぱり道士さまなのか?」


「ああ、碧玉へきぎょくと呼ばれる道士さ」


 見物していたものたちは口々にそう話した。


碧玉へきぎょく......道士か、

 僕より少し年下みたいに見えるけど、

 気で老化も止められるみたいだし......)


 下を見ていると、碧玉へきぎょくは崖に槍をかけると、

 二、三回足をかけ跳ぶように崖上に舞い降りた。


 おおーーと見物していたものが感嘆の声を上げると、

 颯爽さっそう碧玉へきぎょくは、

 その人々の前を歩く。


「もう、大丈夫ですので、

 みなさまご安心して旅をお続けください」


 そう人懐っこそうな笑顔で言った。

 そして碧玉へきぎょくは僕の方を一度みて止まる。


「おや? あなたは......

 まさか仙人さまですか!」


「あっ、はい。あの......」


「ここでは......あちらに参りましょう」


 そういうと姿を消した。ぐんぐん離れていく。

 

翔地しゅうちか......)


 僕も翔地しゅうち使って気を追って近づく。

 碧玉へきぎょくは人の少ない場所に止まった。


「さすがですね。仙人さま。ご無礼致しました」


 そういうとしゃがみ膝を立てて頭を下げた。


(試されたのかな)


「頭を上げてください。別に仙人も道士も変わらないでしょう」


「いいえ、仙人と道士ではその地位、力は、 

 天地ほどの違いがございます」


 顔を上げて碧玉へきぎょくはそういった。

 先程とは違い真剣な面持ちだ。


 そこで、僕は聞かれたまま、

 今までの話を碧玉へきぎょくに聞かせた。


「なるほど......

 三咲みさきさまは昇天され仙人となられたと」


 そう言って碧玉へきぎょくは頷いている。


碧玉へきぎょくさんは......」


「いえいえ、碧玉へきぎょくは異名です。この緑の髪ゆえ、

 碧玉へきぎょくと呼ばれますが、

 本名は歌風かふうと申します」

 

「そうなんですか......ではなんとお呼びしましょう」


「略称はいりませんので、

 碧玉へきぎょくとお呼びください。

 幼き頃より、ずっとそう呼ばれているので慣れました」


 そう屈託のない笑顔を見せた。


「わかりました碧玉へきぎょくあなたは道士なんですよね」


「はい、それが何か?」


「いえ......僕は仙人となったその意味が見つからないのです。

 ですので、それを探しているのですが、

 一体仙人とはなんなのですか?」

 

「仙人とはですか......難しいですね......ですが主に、

 不老不死の真人しんじんを目指すらしいですね」


「やはり......てすが僕は正直、真人しんじんにも、

 不老不死にも興味がなくて」


「ふむ、そうですか......そういう方もなかにはいますね......」


 そう複雑な顔をして見せた。


「それ碧玉へきぎょくは修行中なのですか」


「はい。人びとを助けながら、修行をする毎日です」


 そう言ってそう微笑んだ。


三咲みさきさまは、

 仙人になった意味がわからぬとおっしゃいましたが、

 道をたがえぬならば、お好きにいきればよろしいと思います」


「道をですか?」


「はい、仙人とは気を操り道を修める資質を持つもの。

 力あるものはその力を使ってこそ意味がある。

 そう私の尊敬する方はおっしゃいました」


 そう満面の笑みで碧玉へきぎょくは答えた。


「力の正しい使い方がわからないので、

 碧玉へきぎょくの師である仙人さまに、

 お会いすることはできますか?」


「私の師にですか......」


 碧玉へきぎょくは露骨に顔を歪め、

 怪訝けげんな顔をしている。


「会っても役に立つかどうか......おそらく失望すると思いますが」


(尊敬するものとは師ではないのか......)


 なぜか難色を示す碧玉へきぎょくにお願いして、

 何とか会わせてもらえることになった。

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