第20話 外禍《がいか》の地

「ですから、言ったでしょう。

 あの方には期待などできないと......」


 そのあと宿をでて入った食堂で、

 碧玉へきぎょくはあきれたようにそういった。


金白仙こんびゃくせんは、

 位の高い仙人って言ってましたけど、

 そんなすごい仙人には......い、いえ!、すみません」


「......いいえ、当然ですよね。私でも疑っているぐらいですし、

 ただ兄弟子がそういうものですから......」


「兄弟子がいらっしゃるんですね」


「ええ、とても立派な方で、

 その兄弟子、白天仙はくてんせんに、

 私は仙術を習ったのです」


 満面の笑みで碧玉へきぎょくは答えた。


「尊敬しているんですね」


「ええ、私は捨て子でしたから、白天仙はくてんせんに、

 育ててもらったようなものなのです......」


 昔を思い出すかのように懐かしそうにそういった。


「その方は今どこに」


「修行の上、仙人となり自らの仙島にのぼられました」


「自らの仙島?」


「ご存じなかったのですね。

 あの空に浮かぶ仙島は、全てその仙人自らが作るのです。

 そして真人しんじんとなるため修行します」


「そうなのか......」


(だったら、僕も作るべきなのか......

 というかあれ空だから小さく見えるけど、

 山に登ったときみたら都市くらいあったぞ。作れるのかな)

 

「だったら、どうして金白仙こんびゃくせんは、

 仙島にいないのですか?」


「仙人でも仙島を作り天に住む天仙てんせんと、

 地上にいる地仙ちせんがいるのです。

 まあ、師匠の場合きっと面倒臭いとかでしょうけど......

 ......話は変わりますが、三咲みさきさま。

 若輩じゃくはいの私に、

 少しお力をお貸しいただけませんか?」


 そう神妙な顔で頼んできた。


「えっ? 力を......

 構いませんが一体何を手伝えばよいのですか?」


「この国から一つ頼まれごとをしていまして......」


「国から頼まれごと?」


「実は、この国にある深蝕しんしょくの森の魔獣討伐を、

 お手伝い頂たいのです。頼まれたのですが、一人では難しく、

 かといって師匠はあの体たらく......三咲みさきさまとなら、

 あの魔獣たちを排除できるとおもうのです」


(魔獣か......碧玉へきぎょくはかなり強いし、

 僕も強くなった大丈夫だろう)


「まあ、碧玉へきぎょくには、

 色々お話も教えてもらいましたし、構いませんよ」  


「そうですか!では明日、向かいましょう!」


 そう僕と碧玉へきぎょくは魔獣討伐の約束をし、

 その日は宿に泊まった。

 朝起きると金白仙こんびゃくせんの姿はなかった。


「どうせ、借金でもしにいったのでしょう」


 そう碧玉へきぎょくはあきれながらいった。


 その後、僕たちは魔獣のいるという、深蝕の森へと向かった。


 翔地しゅうちで移動して半日、その森へと到着する。


(しかし、半日走り通しでも平気なんて......

 かなり力が上がっているな)


「はぁ、はぁ、さすが仙人さま......

 半日走って息も乱してないとは......」


 そう碧玉へきぎょくは息を切らせる。


「ここですか......ずいぶん暗い、

 しかも、いやな気を感じます......」


 その暗い深い森からただならぬ気を感じる。


「ええ、この森はまだ人の支配してない場所、

 【外禍がいかの地】と呼ばれる場所です。


「【外禍がいかの地】......」


「そうです。この仙境はとても広い、昔より人はこの陰の気の濃い、

 魔獣の巣食う【外禍がいかの地】を、

 少しずつ手に入れて住みかとしてきました」


「つまり誰の土地でもない場所ということですか?」


「そうです。国のなかにもこのように、

 【外禍がいかの地】は点在していて、 

 ここから魔獣が生まれ人々を襲うのです」


「なるほど......」


 森のなかを歩きながら話を聞く。

 

(確かにひとつ大きな気がえり、

 他に大きくはないが気が多数ある)


「ここの魔獣たちを全て倒すのですか?」


「いいえ、元々そこで一番の強い魔獣のおさ

 【王魔】《おうま》を倒してしまえば、

 他の魔獣は統率を失って瓦解するでしょう」


「それでは近隣の住民が危険では」


「大丈夫です。昨日のうちに国に伝達をしています。

 よく森の周囲を探ってみてください」


「あっ!大勢の気を感じる!」

 

「この森の周囲に、

 汀涯ていがい軍の兵士たちが囲んでいます。

 逃げ出した魔獣は軍によって討伐されますので、

 我々は【王魔】《おうま》さえ倒せばいいのです」 

 

「なるほど」


「ただ、この【王魔】《おうま》

 通常の魔獣と桁違いの強さらしいので心してください」


「そんなに手強いのですか?」

  

「私も戦ったことはありません。

 師匠からは戦うなとはいわれていますが......正直それほどとは、

 まあ私と三咲みさきさまならば平気でしょう」


「そうか、でも【王魔】《おうま》と対峙するまでは、

 極力他の魔獣とは戦わないでおこう」


 碧玉へきぎょくと僕は森の中にはいる。

 奥に行くにつれ次々と魔獣が増える。

 気を探り、回避しながら奥へと向かう。


「奥に巨大な気が......」


「ええ、間違いありません......【王魔】《おうま》です!」


 茂みを掻き分けると、

 奥に山のように大きな剣山のようなものが見えた。


「来ます!」

 

 碧玉へきぎょくがそう叫ぶと、剣山は動く。


「あれは針ネズミ!?」


 大きな針ネズミは、

 こちらに大木のような巨大な針を打ち出してきた。


水如杖すいにょじょう!!」


 僕は球体のように気を展開して針から守る。

 球体に針は刺さり目の前で止まった。


「助かりました三咲みさきさま!では行きます!!」


 碧玉へきぎょくは背負った槍を引き抜くと、

 打ち出してくる針を叩き落としながら剣山に近づく。

 僕はサポートするために、

 水如杖すいじょじょうを構える。


(あの槍であの金属みたいな針を貫けるのか!?)


風殻槍ふうかくそう!!」 


(あれは!?)


 碧玉へきぎょくの槍の周りに渦のように風が巻き、

 槍は針ごと体を貫いた。

 針ネズミは地響きを立てて地面に倒れた。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る