第14話 下天教

 次の日、亜遜あそんさんは村の者を使い、

 薬を買ってこさせた。


「これが【神薬】か」


(気を感じる......毒のようなものではなさそうだ)


「とりあえず、この一つ以外は、村の人で飲んでください」


「よろしいのですか!ありがとうございます!」


(これを早く陸依りくい先生の所に持ち帰ろう!)


 亜遜あそんさんに持ってるだけの薬を渡し、

 近隣の村々に渡すよう頼む。僕はその【神薬】を持ち、

 仙術【翔地】《しょうち》を使い安薬堂まで戻った。

 

(さらに飛ぶように速く走れるな!これならすぐに着く!)


 僕は気を練り内気ないきを身体中に流すことで、

 肉体の強化と能力を使えるようになっていた。


 安薬堂に着くと、店に急いではいり、

 薬を作っていた陸依りくい先生を見つけた。


「先生!!」


「あっ!三咲みさきさま!どうされました!」


 驚く先生に事情を話した。


「なるほど......確かに気を感じますね。間違いなく、

 これは内丹術ないたんじゅつで作った薬ですね......」


「やはり......」


「確かにどこかの宗教が薬を高額で売りつけている。

 そういう噂がありましたが、これのことですね......」


「調べてもらえますか?」


「はいもちろんです!今すぐ調べてみましょう!」


 そう言って陸依りくい先生は、

 調べることを約束して調剤室にはいった。


「しかし、内丹術ないたんじゅつを使うということは、 

 仙人か道士なのか......とりあえず、その教団にいってみるか」


 すぐさま蒼穹そうきゅうの村に戻る。

 村では村長の亜遜あそんさんが待っていた。


「どうしました?亜遜あそんさん」


「あ、あの実は、

 三咲みさきさまにお渡し頂いたお薬を、

 近隣に分の村にわけようと向かった所、その村々は......

 もう下天教げてんきょうの信徒となっておりました......」


 いいづらそうに亜遜あそんさんはそう言った。


「すでに曇斑疫どんはんえきが拡がっていたのですね......」


「はい、それで近くの村もお金が払えなくて、

 入信し、鉱山などできつい労働しているようです」


「お金の代わりに信徒に......

 そんなことをしたら反発も大きいのでしょう」


「いえ、どうやらかなりの人数が、

 積極的に協力しているようなのです......」


「えっ?」


「どうやら薬の効果を奇跡と呼び、

 更なる救いを得るために、信奉し始めたようです」


「どうしてそんなことに......」


 亜遜あそんさんは、ぽつぽつと語り始めた。


「......ここいらの村々は元々困窮していたのです。

 地位なきゆえに都市に住むことも許されず、

 かといって主たる産業もなく、病や苦痛を伴う鉱山や、

 荒れ果てた農地を耕すしかいきる方法もない。 

 学を修めるためのお金もなのですから......」


(それで......)


「教団は彼らに希望を見せた、神にすがれば救いが得られると......

 誰も見せてくれなかった希望を」


 亜遜あそんさんは哀しそうな目でこちらを見て、

 目をそらした。


(この人も迷っているのか......)


 亜遜あそんさんに教団の支部があるという場所を

 教えてもらい、その場所に向かう。


「本当に救いを与ようとするなら構わないが......

 ただ、多額の金銭の要求や強引に信徒にするやり方は、

 引っかかるな......あれか?」 


 まだ建設途中だが、大きな神殿のような建物が建っている。

 そこに次々と波のように、

 同じ白いローブのような服を着た人たちが多く入っていく。

 その周辺に粗末な着物を着て、

 木材や石材を運んでいるものたちが大勢いた。


(あれは周囲の村人たちか?建設に従事させられている......)


 それを見ながら、

 建物入っていく信徒たちに紛れて中にはいる。

 内部は彫刻や豪華な装飾が各所にちりばめられていた。

 

(中はだいたい出来てるのか......だけど無駄に豪華な造りだな。  

 このお金も信徒たちから得たものか......)

 

 奥に進むと、中央に祭壇のようなものがある広場にでる。

 祭壇には十名程の、

 豪華な色つきのローブを着たものたちがいる。

 

「あれが教団の上位信徒ですか?」


「ええ、彼らは教祖に近く、

 教祖陀円だえんさまの意を伝える役目なのです」

 

陀円だえん教祖か......)


 信徒の話し声が聞こえる。


「しかし......本当に救われるのか......

 私財をなげうって破産したものもいると聞く」


「うむ、曇斑疫どんはんえき以外に、

 特段よきことも起こらぬし......」


「しかしかなりの浄財すれば、死したあとどんな大罪も許され、

 苦痛のない極楽にいけるといいます」


「それはとても素晴らしい......

 ならば、私ももっとお布施しなければ」


 信徒たちは熱を帯びたようにそう話している。


(浄財......お布施......寄付してるってことか)


 その時、祭壇上の一人の男が信徒に呼び掛ける。


「静粛に...... 神の子達よ。

 神の代理たる教祖、陀円だえんよりの言葉を伝える。

 これからも愚かなる民衆を信徒となるよう導き、

 その身と財を神へと捧げるように、

 さすればそなたらの働きは神に届き、

 いずれ死しても、大いなる祝福を得るであろう」


 そういうと、集まった信徒は大声で、

 陀円だえんと叫び始めた。

 

(すごいな......)


 その血走った目で熱狂している信徒たちに、

 魔獣とは異なる恐怖を覚える。


(信教は自由だ......だが曇斑疫どんはんえきのことは違う......

 もう少し調べよう)


 信徒たちがうながされ外に出ていく。

 その時、大きな柱に身を隠し、

 上位信徒と呼ばれる者たちを監視するため、

 祭壇裏に翔地しょうちで近づいた。

 上位信徒たちの声が聞こえる。


「ふぅ、やっと終わったか......この演説も肩がこる」


 演説していた男が肩を回す。


「お疲れさまでした......

 さすがに怪しむものもでてきました」


「ああ、しかし金の玉子をうむ鶏を離せはしまい。

 なんとしても上手く飼い慣らさなくてはな」


「ええ、陀円だえんさまは、

 より多くの信徒を集めるよう指示してきております」


「勝手なものよな。

 だが、そのお陰で我らも役得にありつけるというもの。

 神さまさまではないか」


 そういってみなで笑いあっている。


(やはり、詐欺のようなものか......でも【神薬】は......

 一度、陸依りくい先生に相談するか......)


 翔地しょうちを使い、

 安薬堂あんやくどうまで戻った。

 

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