第13話 病

 紫水しすいをでて、

 蒼穹そうきゅうという国にはいった。

 

 この国は中央に近く、町村や人も多い。

 僕は街道を歩きながら村や町で、

 陸依りくい先生の薬を売って歩き、

 手洗いやうがいなど衛生的な指導も行いながら旅をしていた。

 

安薬堂あんやくどうの名を言って売れば宣伝にもなるし、

 病の流行も防げる。なくなれば作り方は教わってるから、

 内丹術ないたんじゅつで作ればいいし、

 売ったお金はあとで送ろう)


 そうして、ある村に立ち寄る。


 粗末な家が立ち並び、外に人はいず、ひっそりとしている。


(なんだ......この村......) 


 異様な感じを受け、村をみて回る。

 一つだけ大きな家があった。


(村長か、長者の家かな)


「すみません。旅のものですが、一晩泊めていただけませんか」


 そう声をかけると、家の扉の上の方にある木の板がはずれ、

 人の目が見えた。老人のようだった。


「すまぬな......泊めてやりたいのはやまやまだが、

 この村は危険だ。早くでた方がいい」


 そう重苦しい口調で答えた。


(これはただ事ではないな。仕方ない......)


「私は三咲みさきという仙人です。

 何事か困りことがあるなら、相談にのりますが」


「仙人......さま」


 すぐに扉が開く。


「ほ、本当に仙人さまでございますか......」


 やせた老人がそう聞いてくる。

 僕は手のひらの上に水球をつくって見せた。


「おお、本物だ!」


 そういうと老人は平伏した。


「やめてください。それより、この村の危険とは......」


 そう言いかけて奥の部屋をみると、

 布団に人が横たわっている。

 その体に炭のような斑が見えた。


曇斑疫どんはんえきですか!」


「は、はい、この村で急に流行りまして......」


 失礼しますといい、僕は布団に近づく。


 苦しそうな老女に、薬を飲ませた。

 少しだけ楽になったのか寝息をたてている。


「おお妻が!あんなに苦しがっていたのに!!

 ありがとうございます!」


「いえ、この薬では病を治せるかはわかりません。

 なんの病気かわからなければ治すことは......」


「そ、そうですか、それでも軽減されるだけましです。

 仙人さま!そ、そのお薬!

 村のものにも分けていただけますか......

 お金は後でなんとしてもお支払します!」


「ええ、みんなに渡しましょう」


 それから各家庭を回り薬を渡した。

 

 老人は村長で亜遜あそんさんと言った。

 亜遜あそんさんの家に一度戻り話を聞いた。


「それで亜遜あそんさん、

 一体いつ頃この村で病が流行ったのですか」


「確か、五日ほどまえでしたか......いや、そうだ、一週間前......

 あの者たちが来たあとからだ。間違いない」


「あの者たち?」 


「ええ、下天教げてんきょうの信徒たちです」


下天教げてんきょうの信徒......」


「数年前できた宗教です。他の信教を否定しておりました」


 亜遜あそんさんは怪訝そうにそういう。


(別におかしくはないが、

 他の信教を否定するのはひっかかるな。

 それに亜遜あそんさんのこの反応......)


亜遜あそんさん何か気になることでも?」


「いや、この世界は仙人を信奉するものは多いんてすが、

 存在するかわからない神を信奉するものは少ないのです。

 ですから、異端の宗教てはありまして......」


(そうか!仙人がいるからか)


「ただ、彼らのいうことを聞けば良かったと......」


「どういうことですか?」


「彼らが言ったのです。

『もうすぐこの村にも流行り病がくるだろう。

 この神より賜った【神薬】がなければこの村は滅びよう』と」


「ですが、この村は貧しくあんな高い薬は買えなかったのです。

『それならば我らの神を信奉し、信徒となるならば、

 この薬を与えよう』ともいっておりました......

 その時に、村の者を説得し信徒となっていれば......」


 悔しさをにじませた表情で村長は語った。


(信徒になれば薬を与える......か、脅しじゃないのか。

 気になるがとりあえず)


亜遜あそんさん、その薬を手に入れられますか?」


「はい、本部は隣の国の雅楽がらくにありますが、

 一年ほど前から、この近くに支部をつくっておるようです。

 ......ですがかなり高額な薬で我々にはとても......」


「このお金で買えるだけ買ってください」


 そう言って手持ちのお金をほとんど渡し頼んだ。


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