8-2

『では、被害女性のスマホに残されていた、その男とのメールのヤリトリの画像スクショなんかを、今から配信画面でお見せしたいと思います。決定的な証拠です。……マイさんは、そのまま待っててくださいね』


「はい。お願いします」

そう女性は答えると、スマホのディスプレイに映る通話ツールの消音ミュートボタンを、ポップなネイルアートがほどこされた細い指先で押してから、

「ねぇ、これでホントに先月の売り掛け、チャラにしてくれるんだよねぇ?」

と、ソファの左右に寄り添うホスト2人を、上目づかいで交互に見た。


新宿にある中箱クラスのホストクラブの、ここは、パーテーションで仕切られた個室の中だ。


紫苑と楓は、したりげに微笑みを交わした。


「もちろん。オレたち2人で折半するから任せて。これも、今夜はオゴリ!」

と、楓が、フルートグラス3つにスパークリングワインを注ぐと、


「男の風上にもおけないクズ野郎に、地獄を見せてやってくれ」

そう言って紫苑が、グラスをひとつ女性に手渡す。


3つのグラスのフチがカチンと触れ合ったとき、

『もしもーし! マイさーん、通話に戻ってきてもらえますかぁ?』

と、テーブルの上から声がした。


女性は、あわててスマホを手に取り、消音ミュートボタンを解除した。

「あ、はい。もしもし」


『では、マイさん! その超・大人気インフルエンサーの名前を、50万人のリスナーに向かって暴露してもらえますか?』


「はい」

女性は、ゴクリと息をのんでから言った。

「……インフルエンサーの、ヒサメです」


楓は親指を立てて掲げながら、紫苑とドヤ顔を並べて、自分のスマホでツーショットの自撮り写真をとると、メッセンジャーアプリの星尾のアカウントに"返信"した。

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