8-1
午後11時。
オンライン動画共有プラットフォーム『ニューチューブ』で、200万人超えのチャンネル登録者数を誇る大人気配信者ポレポレの
『……でですね、みなさん。今日ホントは配信はお休みの予定だったんですが。番組放送タイトルでお伝えしたように、今夜ホント、つい1時間ほど前にね、フォロワー300万人超えの超有名インフルエンサーについての、ものスゴいタレコミがありまして。急きょ放送の枠を取ったというわけで』
と、当人が
『いやちょっと……
耳通りのいいリズミカルな若い男性の声がからかうように言うと、配信画面に流れるリスナーからの、リアルタイムのチャットコメントが、イッキに速度を増す。
"同接記録更新おめでとう!"
"どうせ売名目的の自作自演、炎上凸だよ"
『いや、炎上じゃすまないよ、このネタは。ヤバすぎ。即、火ダルマよ』
"釣りサムネ乙!"
"期待ハズレの予感しかない"
『今日は、期待を裏切りません! 名前を聞いて絶対ビックリするから、みんな。……ホントにね、やってることヒドいからね、コイツ。証拠のスクショとかツーショット画像も山ほどもらってるし。こっちも被害女性のニュース記事とかで裏をとったりもしたんでね。まず間違いない』
"もったいぶるな!"
"はよ害悪インフルエンサーの名前さらせ"
"ガセだろ、どうせ?"
『じゃあね、ガセかどうか。さっそく
"ピロポロポロン……"と、メッセンジャーアプリの通話ツールによる発信音が流れる。
数秒で、通話相手の声に切り替わる。
「はい、もしもし……」
少し鼻にかかった、魅力的な若い女性の声だ。
ポレポレが、すかさず会話をリードする。
『
「はい」
『それで、フォロワー300万人超えの超人気インフルエンサーから被害を受けた女性っていうのは……?』
「アタシの職場の同僚でした。同じコンカフェにつとめてたんです」
『被害にあわれた女性本人は、なぜ電話に出られないんです?』
「2年前に亡くなりましたから。危険ドラッグの
『それは……事故ということで?』
「でも、そこまで追いつめたのはアイツです。アイツが殺したようなもんです。インフルエンサーの……」
『あっ、ああああっ! 名前はまだ出さないで! 話をちゃんと精査してからじゃないと』
「あ、はい」
『有名インフルエンサーとコンカフェのメイドさんが、そもそも、どうやってツナガリができたの?』
「同僚の女の子は、その男と出身地が同じだったんです」
『なるほど! もともと昔から知り合いだったと?』
「はい。それで、上京してすぐ、一緒にゴハン食べようって、彼女が男から呼び出されて」
『はいはい。同郷のよしみでね。アリガチだよね』
「ゴハン屋さんを出たら雨がドシャ降りだったので、"雨宿りしていきなよ"って言われて、近くにあった男のマンションについてってしまって……そこで性的な暴力を受けたせいで、トラウマで苦しんで」
『そのせいで、ドラッグにハマっちゃったのかな?』
「っていうより、ドラッグを彼女に渡してたのも、そのインフルエンサーなんです」
『えええっ!? それがホントなら、そうとう闇が深い話だよ』
「ホントです。最初の時だって、ドラッグ使って頭モウロウとさせてから、無理矢理エロいことしたんです、あの男。ってか、証拠のメール送りましたよね?」
『でもそれ、だったら、なんですぐ警察に行かなかったのって話になるよね?』
「ハメ
『ごめんごめん。念のため、送ってもらった資料と
「あ、はあ」
『ってことでですね、リスナーのみなさん。今回とりあげるインフルエンサーなんですが。危険ドラッグを利用して女性を性的に乱暴し、さらに、その盗撮動画を拡散すると言って脅し、さらにさらに、精神的に追いつめられた女性をドラッグの依存症にして。最終的に女性はドラッグのせいで亡くなってしまったと。……こんな男が、なんの罰も受けずに、毎日SNSで加工まみれの自撮りあげてフォロワーからキャーキャー言われてんだぜ? ありえないでしょマジで』
ポレポレの本気の怒りが、50万人超のリスナーに共鳴した。
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