7-4

ものの2分と進まぬうちに、洞穴は岩壁にぶつかった。


長身の星尾が前に立つと、ちょうど胸のあたりの高さに、真っ平らな薄い岩棚が手前に突き出た格好をしている。

岩棚の上には白木の三方があげられていて、三方の上に、干物のように乾燥した暗灰色のヘビが、グルグルとトグロを巻いている。

胴の太さは2センチ程度だが、体長は1メートルほどもあるのだろうか。


普通のヘビと大きく異なるのは、長い胴体の皮膚がところどころ裂けて、そこからいろいろな虫が干からびた頭部を突き出しているところで。

カマキリや、ゴキブリ、スズメバチ。あるいは、タガメやヤゴなどの水棲昆虫らしいのもあった。

そして、胴体の両側面すべてにわたって等間隔に、ムカデの脚から関節をなくしたような、真っ赤な短い触手が無数に連なっていて、そこだけが生々しくヌラヌラとツヤめいていた。


――これが、蠱毒の本体……

星尾はゴクリと息をのみ、それが視界に入らないように顔をそむけながら、用意していた燭台を岩棚に置き、ライターでロウソクに火をともした。

異形の呪物は、鮮やかな陰影を浮かび上がらせると、いっそう不気味な存在感を増した。


「こんなゾンザイなまつり方をされて……かわいそうに」

陽向は、沈鬱な声をもらすと、後ろをふりかえり、星尾の背にしがみついている鈴に顔を向けて、

「夜明け前に片をつけないと、命にかかわるよ。呪いの依代よりしろに対しても、残酷で敬意のない仕打ちをしたからね、キミは」

責めるふうでもなく、淡々と事実だけを伝える口調で言ったのだ。


それが、なおさら鈴の罪悪感をうずかせた。

「す、すいません。オ、オレ……とんでんなかことを……っ! すいません……すいまっしぇん!」


泣きじゃくる鈴の熱い涙をシャツの背中ごしに感じながら、星尾は、

――ひょっとして祭守は、禁忌の呪法を使ってしまった鈴くんに贖罪しょくざいを促すため、わざと水中の蠱毒を解呪したのかも?

などと思いついたが、次の瞬間、


「これほどの呪宝じゅほうに育ったものだと、泰山府君たいざんふくんをおまつりしなけりゃ調伏できそうにないけど。供物を用意してこなかったしなぁ。さて、どうしましょう?」

と、陽向が腕を組んで本気で悩みはじめたので、すぐに考えを撤回した。

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