7-1

「……それじゃあ、鈴くん。蠱毒をまつったほこらに案内してください」

そう言って陽向は、ホタルのスマホをちゃぶ台に戻して、立ち上がった。


鈴は、ひどく泣きはらした顔をグイグイとスウェットのソデでぬぐううちに、また激しくセキこんで、畳に顔をつっぷした。


「鈴くん!?」

鈴を背中から抱き起こした星尾は、切れ長の目をギョッと見開いた。


畳の上には、血しぶきが広がっていた。


「……急がないといけない」

陽向が言った。


星尾は、パンツのポケットからハンカチを出すと、吐血に汚れた鈴の口のまわりをやさしく拭い、自分の唇をきつくかみしめた。

それから、グッタリした細い体をヒョイッと両腕にすくって立ち上がった。


鈴は、文句を言う気力すらなくして、されるがままにレンタカーの助手席に運ばれた。


星尾は、右手でハンドルを握り、左手で鈴の肩を軽く揺さぶって、ささやいた。

「すまないけど、ナビはよろしくね」


「分かっちょじゃ……!」

深めにリクライニングさせたシートに背もたれた鈴は、力なく星尾の手をふりはらうと、いつもは夢うつつのようなオットリした顔つきを、むしろ鋭くギラつかせながら、石門の先を指さした。


亜母礼島あもれじまは、南北に細長い形状をしている。

鹿秋家かしゅうけに来るまでに車を走らせた防風林の間の抜け道を、もっと奥の方向に突き進めば、島の短径を横切ってフェリー乗り場とは反対側の海辺に出る。

鈴は、その海辺に向かうように指示した。


「あ、雨が降ってきた……」

星尾は、つぶやきながら、ワイパーをゆるめのインターバルで起動させた。

真っ暗な林道に白い霧もただよいはじめたので、フォグランプを点灯させる。

交通量ゼロの一本道とはいえ、あまりに視界が危うく、スピードを上げることがかなわない。

「……あんなに晴れていたのに」

フェリーのデッキから見た海上の夕焼けを思い出し、思わず小さな舌打ちがもれる。


亜母礼島あもれじまは、亜母礼女あもれおなぐの島じゃもん……」

と、鈴が、ポツリとつぶやいた。

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