5-2
「急がないと。鈴くんが心配です」
陽向の涼しげな美貌は、いつになく緊迫していた。
スマホの地図アプリで見れば、鈴の実家は、フェリー乗り場の埠頭から車で15分ほどのところだった。
地鎮祭や
星尾も、はやる心を抑えて、
人気インフルエンサーの影響はまさに絶大だったというべきか、予想以上に整備された景色が、舗装されて間もなさそうな市道沿いに続く外灯にまぶしく照らされていく。
だが、海岸から離れて防風林の間の一本道にタイヤをすべらせたとたん、あたりは灯もなく、鬱蒼とした木陰に包まれ暗がりになり、星尾は、ヘッドライトをハイビームに切り替えた。
やがて、前方に鳥居のような石づくりの門が見えた。
長い年月に削られたものらしく、形もイビツに斜めにかしいでいたが、ひどく重厚な趣があった。
「
と、助手席の陽向が、車窓ごしに門を見上げて言った。
「"ノロ"って、なんです?」
「琉球から奄美に伝えられていた由緒正しい神職で、祭祀や占いの神事をおこなっていた……まあ、ボクたち神主のご同業です。明治維新より昔は、女性だけに限られていたそうですが」
「だから、鈴くんは、蠱毒なんていう恐ろしい呪法をあやつれたんですね……」
星尾は、つややかな低い声を重くくもらせながら、車をゆっくり鳥居の下にくぐらせた。
古く豪壮な
とたんに、玄関の軒下の明かりがパッとともり、木製の引き戸がガタガタときしんで開くと、小柄な少年がユラリと
厚手のスウェットの上下を身につけた
星尾は、本能的な素早さで車から飛びおりると、急いで玄関に駆け寄った。
広げた彼の両腕の中に吸い込まれるように、前のめりに鈴は倒れ込んだ。
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