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羽田の空を昼に出発して、奄美大島の空港に到着したのが午後3時頃。

そこからフェリーで亜母礼島あもれじままで、さらに1時間ほど。

漁業が頼みの小さな離島にもかかわらず、意外にも朝から日没まで約1時間おきに発着の便があった。


午後4時発のフェリーに飛び乗り、デッキにいた若い2人組の女性客になにげなく旅の理由をたずねると、

「"推し"の聖地だし。SNSでえるし」

との返事。

どうやら、インフルエンサーのヒサメが"愛の島"として故郷を紹介して以来、すぐさま島も観光に力を入れて、景勝地や縁結びのスポットなんかの整備をしたところ、見事「島おこし」に成功したようだ。

2年前は一軒も宿がなかった島の海辺に、小さなリゾートホテルも建ったほどだ。


アカネ色のグラデーションを帯び始めた秋の夕空と、波しぶきに煙る海面の境界を、フェリーはゆったり進んでいく。

デッキの手すりにつかまり、なめらかな横顔をなぶる潮風に少し目を細めながら、陽向は、

「ホタルさんにとっては、星尾さんが、誰よりも一番の"推し"だったんでしょうね」

と、覚えたばかりのボキャブラリーをさっそくまた応用してみせて、星尾を複雑な気分にさせた。


――どうして、今の今まで、思い出さなかったんだろう。

無意識に過去にフタをしたがる、ふがいない自分を責める。


2年前、新宿警察署に任意で出頭したときに、星尾が刑事から聞かされた、ホタルの氏名は、"鹿秋かしゅう 穂多瑠ホタル"だった。

すなわち、ホタルは、鹿秋かしゅう りんの身内……おそらくは、姉だろう。

そう意識して思い返せば、いつもどこか夢にうかされているような鈴の面立ちは、ホタルに実によく似ていたではないか。


鈴が禁忌の呪法で星尾を呪殺しようとしたのは、つまるところ、姉の復讐だ。

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