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そのとき、ソファのコーナー席に楓がサッと腰かけて、

「えっ、じゃあ、もしかして。ホタルちゃんが来るときって、いつも雨が降るなぁって思ってたけど。ホタルちゃんのほうが、わざわざ雨の日を狙ってウチに来てくれてたの? ホスト冥利みょうりにつきるねぇ、スバルくん!」

と、斜め隣からホタルの顔をのぞきこんだ。


「…………!」

どうやら図星だったのか、ホタルは、耳タブまで湯気が出そうなほどに真っ赤に染まった。


見ている方がいたたまれなくなって、星尾は、軽率に笑い声をあげて、

「いや、オマエ。引くわ、そういうの」

とは、あくまで、楓のゲスなカングリに対しての非難だったのだが。


自分に対してのセリフと誤解してしまったホタルは、可愛そうなくらいにウロたえて、

「ち、違うの! アタシ、昔っから雨女って言われてて……だから、あの……それだけだから……」


――しまった……と、目配せしあった星尾と楓は、あわててフォローを入れる。

「へぇ、そう。やっぱ、雨女なんだ、ホタルちゃん」

「オレも、けっこう言われるよ。雨男って」


ホタルは、ホッとしたように微笑みを取り戻しながら、

「アタシの故郷ねぇ、"亜母礼女あもれおなぐ"っていう妖怪の言い伝えがあるんだよ」


「アモレ、オナグ?」


「そう。本土では"天降女子あめふりおなご"って呼ばれてたけどね。男をトリコにして命を奪っちゃう、美女の妖怪!」


「うわ、エグい」


「白い風呂敷ふろしきを羽織って、天女みたいに空から舞い降りてくるの。そうすると、どんなに晴れてても、必ず雨がふりだすんだよ」


「白い風呂敷?」

ハッと目を丸くした楓が、ソファの上に落ちたストールの端をつまみ上げて、

「まんま、ホタルちゃんじゃん! もちろん、美女ってとこも含めて」

と、人なつっこい丸い顔に、おどけた笑みを浮かべた。


ホタルは、マンザラでもなさそうに「ふふっ」と小さく鼻を鳴らした。

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