4-3

ホタルが店に顔を出す夜は、不思議と、いつも雨が降った。

だから、口さがないホストたちは裏でコッソリ彼女を「雨女」と揶揄やゆしていた。


「そういえば、初めてオレがホタルちゃんを呼び込みキャッチしたときも、雨だったよね?」

星尾は、明るいハシバミ色の瞳をやんわり細めながら、隣に座るホタルの顔をジッと見つめて言った。


長いマツ毛をまとわせた切れ長の目は、酒が入るとなおさらゾクゾクするような危うい色香を無作為にまき散らしはじめる。

それを目当てに常連の女性客は、高い酒を惜しみなくフンパツするのだから、やはり、星尾にとってホストは天職だったのかもしれない。


だが、ホタルにとっては、シラフの状態の星尾のマナザシだけで、充分に凶器だったから、

「そんなの覚えててくれたんだ。やだ、めっちゃ嬉しすぎて……」

と、言葉を失うほどなんである。


だから、原価1,000円のスパークリングワインを50,000円で乾杯しようなんて、気軽にねだるキッカケがない。

純情可憐な乙女ほど、星尾にとっては手ごわいのだ。


ホタルが、頭からかぶっていた白いストールをスルリと背中にスベり落とせば、細かくうねった長い髪がフワリと広がる。

店内の悩ましくもきらびやかなライティングに照らし出されて、それは、燃えるような赤さをきわだたせていた。


「アタシ、この髪、ずっとコンプレックスだったんだけど。雨の日は特に。チリチリになってふくらんじゃうから。だから、ストールかぶって押さえてるんだけど」

そう言いながら、アンティークドールのような夢見ごこちの愛くるしさを持つ白い顔をほんのりと上気させて、

「でも、初めて会ったとき、この髪をほめてくれたんだよね。スバルくん」


「うん。ミニシアターで観たヨーロッパの映画で、すごく印象的だった、ボリューミィな赤毛の美人がいたんだけど。ホタルちゃん、ソックリだったからさ。初めて見た瞬間、こう"ビビッ"と……」

前半は本音で。後半は、多少の誇張こちょうがある。


でも、ホタルは、繊細な細い手を頬に当ててハニカミながら、

「スバルくんのおかげで、アタシ、雨の日が大好きになれたんだよ」

と、泣き笑いのようなオオゲサな表情を浮かべて、星尾のナケナシの良心を少しばかり痛めつけた。

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