4-2

「いやぁ、彼女、アルコール苦手なんですよ。ムリヤリあおって金を落とさせるのは、オレの営業スタイルじゃないんで」

星尾は、栗色の柔らかな前髪を無造作にカキあげながら、端正な顔に苦笑いを浮かべた。


紫苑は、日焼けサロンで磨きこんだ褐色の手の甲に血管を浮かび上がらせながら、星尾のシャツのエリ首をつかみ上げた。

「は? ぬかしてんじゃねーよ、カス! 毎回チャームとソフトドリンク1杯でダラダラ長居させやがって」


「でもほら、ホタルちゃんがウチに来るときって、お茶っきでヒマな時間が多いから。そこは、まあ。よくないですか?」

おどけた口調でとりなそうとしたのは、星尾と同じ日に入店して以来、同い年のよしみもあって相棒のように支えあってきたカエデというホストだった。


「ヘルプ専門の飲みキャラのくせに。シャシャってんじゃねぇよ!」

と、ハデに舌打ちした紫苑は、仕立てのいい白いスーツに包んだ腕を横ざまにふりはらった。

ゴツいバングルをジャラジャラと付けた手首が、楓の薄い胸を水平にチョップする形になり、楓の体は後ろに吹っ飛んだ。

楓の細い腰は、バックヤードの片隅に積み上げられていた酒瓶のケースにぶつかって、ガシャガシャとハデな音をたてながら床に沈んだ。


「大丈夫か、楓!?」

星尾は、すぐさま楓の前に片ヒザをついて、肩に手を置き顔をのぞきこんだ。


「おう。……ヘーキヘーキ!」

楓は、いそいで上体を立て直しながら、軽薄な見かけによらない気丈な微笑みを向けたが、倒れたはずみで口の中をんで傷つけたらしく、唇の端から血がこぼれていた。


星尾は、ガラにもなく、カッと頭に血をのぼらせた。


スマートな長身に似合うタイトなベロアのジャケットの胸ポケットから、シルクのハンカチを引っぱりだすと、楓の口辺をやさしくぬぐう。

そして、汚れたハンカチを紫苑の手に押しつけるなり、ジャケットの前を指先でスッと整えながら、ことさら悠然とホールに出て行った。


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