3-2
星尾は、なぜだかひどくホッとした気分で、シートに深く背をすべらせた。
通路を通りかかったキャビンアテンダントの女性とたまたま目があえば、反射的に笑顔をふりまいてしまう。
モデルのようにスレンダーで華やかな容姿のキャビンアテンダントは、
星尾は、気まずく視線をそらすと、目の前のカップホルダーに置かれているペットボトルを見つめた。
透明な水の中をユラユラと浮遊する瑠璃色の虫を、この飛行機に乗っている誰もが気付いていない。
搭乗前の手荷物検査で、ペットボトルをX線だか何かの検査器に通されたときは、さすがにちょっとドキドキしたが。
なんなくクリアーしたときには、かえって拍子抜けしてしまった。
コップの中では、あれほど殺意を感じたのに。
ペットボトルに閉じ込められて観念したものか、瑠璃色の虫は、暴れることもなく大人しくなっていた。
それどころか、細長い体を気まぐれに美しく、キラキラと点滅させている。
光る虫……というワードから、星尾には、連想せずにはいられない名前があった。
「ホタル……」
ふっと無意識につぶやいてしまってから、ケホケホとセキバライをしてごまかす。
「大丈夫ですか?」
陽向が、顔をふり向けてたずねた。
「ちょっとノドが乾いて。機内が乾燥してるからかな? ……スイマセン」
と、星尾は、うわずった声をあげた。
「飲み物でも頼みますか?」
「あ、いや、……平気です」
今コールボタンを押したら、さっきのキャビンアテンダントが
星尾は、ブンブンと首を横にふった。
「そうですか。じゃあ、空港に着いてから、何か飲みましょうか」
と、陽向は、それとなく見透かしながら少し目を細めて、星尾を見つめた。
シンプルな洗いざらしのシャツとカジュアルなパンツでも充分に映える引きしまった長身に、いかにも女好きのする甘いマスク。
切れの長い明るいハシバミ色の目と、ひとりでに毛先がユルいウェーブをえがく柔らかな栗色の髪。
――気の毒だけど、このヒトは、この先も女難が絶えないだろうなぁ……
そう胸のうちで思いながら、陽向は、
「ホタルって、
と、闇討ちまがいのトートツさで、聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます