2-2

10分もたたずに、千影は自分でパチリと目を開いた。

同時に、ペットボトルの中の虫も、水の中を寝ぼけたようにフワリフワリと浮遊しはじめた。


千影は、大きなアクビをもらしながらノッソリと上体を起こし、サラサラした黒髪をものうげにカキ乱しながら、

「なんか、ユーウツな夢だったなぁ……」

と、甘ったるく乾いた声を、寝起きでいっそうカスレさせながら、

「地面も空も霧に包まれてて、景色なんて全然みえなかったよ。前に伸ばした手の先っちょも見えないくらい。ひたすら灰色の霧の世界で。昼か夜かもわからなくって。ジトジトジトジトうっとうしい小雨が降り続いてる中に、頭の上から白っぽい布が落っこちてくるんだ。ヒラヒラヒラヒラ、何枚も何枚も……」


「雨の中に……白い布?」

星尾は、ピクンと肩をふるわせて、オウム返しに問い返し、

「その布って、ストールとかショールとか、そういう感じのじゃなかった? 女性が使うような……」



「あ、そうそう。ちょうど、そんな感じの。薄っぺらくて細長い布。さわろうとしたら、寸前でパッと消えちゃった」

千影は、モコモコのパジャマに包まれたしなやかな腕を組んで、いぶかしげにツブヤいた。


星尾は、芥子色からしいろはかま姿のヒザの上で、両手をかたく握りしめた。


千影は、思い出したように、また大きなアクビをしてから、

「てか、ホッシー。あんときの賭けは結局、オレの勝ちだよなぁ?」


「え? 賭けって……」


「鈴がウチにきたとき、ヤツの修行が続くかどうかで賭けたじゃんよ? オレは1か月以内に音をあげて逃げ出すってほうにベットして、ホッシーは、鈴が根性みせて居すわるってほうに賭けたじゃん。理由はどうあれ、鈴はウチから逃げ出したわけだから。オレの勝ちだかんな」

と、なめらかな美貌を得意げにニンマリとゆがめた。


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