第5話 校内日常
おーし、一番のり。
静まり返った教室は淡い光が差し込んでいた。
ここはスマホだ。
メッセージアプリを起動すると。
一季君が現れる。
「あ、おはよう」
「ああ、おはよう」
単純な挨拶なのに心がザワザワする。
二人だけの世界は特別な時間であった。
よーここでメッセージアプリの交換だ。
「こ、こ、こ……」
確かに今まで交換できなかったのだ。
突然、その様な力が得られた訳ではない。
「こ、こ、コケッコー!」
「きあは楽しいキャラだな、不思議だ、何故、メッセージアプリの交換をしていなかったのかだ」
「交換してくれるの?」
「喜んで」
一季君はスマホを取り出して。簡単な作業をして。メッセージアプリの交換をする。
その後、交換された画面を見て興奮すると。
『三歩下がる』
賽の目だ、わたしは三歩下がると。
椅子につまずき倒れそうになる。
不意に一季君の手を掴む。
それは大きな男子の手のひらであった。
わたしがバランスを取り戻すと、手のひらを合わせてみる、それは恋人同士に成った気分だ。
うん?
クラスメイトが教室に入ってくる。
わたし達は離れて自分の席に着く。
なんだ、賽の目の占い当たるじゃん、今朝のビルの屋上の夢は何だったのかな。
よし、関係無い事にしよう。
退屈だな、世界史の授業は念仏より興味のないモノであった。
「『谷崎 きあ』聞いているか?」
「は、はい」
げ、指名された。
「なら、答えられるだろ」
「ぃぃぃぃ、イチゴは好きです」
あいたたた、かなりの恥だ。この様な状況ではルネッサンスの画家でもあげればよかったのか?
「そうだな、先生もイチゴは好きだ、もう、座っていいぞ」
わたしは数分間、真面目に授業を受けるが、やはり興味がない。
あああ、わたしは頭をくしゃくしゃにして、耐え難い時間を過ごす。
「少し早が今日の授業はこれまで」
あー解放された。
「きあ、今日もぶっ飛ばす内容だったね」
えへへ。
友達の夏紀に関心される。
さて、自販機にでも行くか。
渡り廊下を越えて夏紀と共に自販機に向かう。
紅茶とフルーツドリンクに迷う。
「よーし、ボタン同時押しだ」
ドカン
出てきたのは紅茶であった。
わたしは美味しく紅茶を飲むのであった。
「最近、ご機嫌だね」
「あい」
クラスのアイドルの一季君と仲良くなれたのだ。
わたしは等価交換など信じない。
指を太陽に向けるとクルリと一回転する。
「キラリ、はなまる太陽」
決まった!
わたしは決め台詞が決まったのである。
***
「あ!い!う!え!お!あ!お!」
わたしは帰宅部である。普通の話だが所属は演劇部である。
「おす」
体育館のステージ横のスペースが演劇部のたまり場だ。
「きあ?生きていたの?」
「ま、ぼちぼちだ」
これでも、演劇で全国を目指した事もある。
しかし、集団行動の苦手のわたしには不可能であった。
「きあ、中谷先輩の隠し撮り写真は欲しい?」
あ、あのオスカー女優の中谷先輩ね。
その存在感の強さから付いたあだ名だ。
そして、その人気は男女問わず。親衛隊まで存在するのだ。
あいにく、百合に走る気分ではない。
「で、今はなにを目指しているの?」
「普通の女子の幸せだ」
「きあから演劇を取ったら、何も残らなかったからね」
「あぁ、ここまで普通の女子になるとは思わなかったよ」
旧友と自分の存在について語ることがあるとは驚きである。
思春期に自分の存在について語る。
少し今時の女子高生には不釣り合いだ。
わたしは演劇部を後にすると。
体育館から校舎に戻る道の途中、一季君が歩いていた。
こちらに気づくと向かってくる。この恋心が胸をドキドキさせる。
これがわたしの現実だ。
片思いのはずなのに『賽の目』のおかげで、その距離は近づくのである。
第七世代のAIである『i』がわたしのスマホに亡命していてチート能力が得た。
しかし、亡命するほどAIも生きたいと思うのだな。
「きあ、探したよ、現代ミュージックをオーケストラで演奏するタダ券があるのだよ」
タダ券?それは欲しい。
「ありがと、絶対行きたい」
「ホント?ペア券だけど、一緒に行ってくれるのだね」
これは、デート!!!
わたしは幸せの絶頂であった。
「じゃ、明日の土曜日に駅前で待ち合わせでいい?」
明日!突然過ぎる。
恋する乙女には時間が足りない。
お出かけ用の服などなく、普段はジャージ姿である。
イヤ、髪の手入れをしてジャージ姿を誤魔化すか?
ここは制服姿で行って一人で浮くか。
アホだ、わざわざ苦行をしてどうする?
先ずはネイルサロンでテカテカにして出来る女子だとアピールするか?
落ち着け、落ち着け、ここは浴衣だ。
デートと言えば浴衣だ。
ダメだ、季節外れだ。それ以前にオーケストラで浴衣は無いだろう。
一周回って、ジャージ姿で行こう。
違う、違う、去年の家族旅行った。服があったはずだ。
これで服は大丈夫だ。
問題は髪だ、イヤ、お腹に付いた肉だ。
エステに行ってピッチピッチの姿になるのか?
そこまで一回のデートでそこまで進展?
「顔、青いよ、オーケストラ止める?」
一季君が声をかけてくる。
「だ、大丈夫です。明日のお出かけ頑張ります」
わたしはフラフラしながら一季君と別れるのであった。
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