第2話 少しずつ縮まっていく距離

いつも、塾に遊びに行くときには、ハルカと一緒だった。

ハルカと、K先生の3人で話すことが多かった。


でも、塾に遊びに行くことに慣れてきて、ハルカがいない時にも塾に遊びに行くことが多くなった。


塾には、だいたい土日に遊びに行くことが多かった。あとは、早く学校が終わった日とか。

テストの日とかが多かった。


日中は、塾にはK先生しかいないことが多かった。

生徒が夕方からちらほらと来るので、それに合わせてバイト講師も出勤して、塾が賑やかになる。


逆に言えば、日中に1人で遊びに行けば、K先生と2人きり、というわけだ。

しかし、当時の私は特にそんなことは気にも留めず、ただ「楽しいから」遊びに行っていた。


私は、母子家庭で育った。

母はいつも仕事で、家にいなかった。

家ではいつも独りぼっちだった。いつも留守番をして、母の帰りを待っていた。


だから、ある意味では塾に行くことで、「居場所」を求めていたのかもしれない。


ある日、ぽろりとK先生に「どうせ帰っても1人だし」てこぼしたことがあった。

話を聞けば、K先生も母子家庭で育って、私と同じような思いをして育ったらしい。


ひょんなところから生まれた、2人の共通点。

17年前のK先生の境遇が、まさに今の私なのだ。


そこから、K先生との距離が何となく近付いた気がした。

しかし、私はまだ12歳の中学1年生。田舎のイモ娘だ。

恋だの愛だのなんて、何にも知らない。

何にも染まっていない、真っ白な私だ。


だから、「K先生といると楽しいな、嬉しいな」くらいにしか思っていなかった。


この頃から、K先生に良く思われたくて、見栄を張った私は、壊滅的に苦手な数学の勉強を頑張るようになった。


数字を見るだけで目眩がするような、この私が数学を勉強している。

これは、アームストロングが月に降り立った第一歩並みに大きな一歩だ。

が、しかし、「数学の壁は厚かった」。


そんなわけで、母を口説き落として、ハルカと一緒に塾に通うことになった。

中学1年の、夏くらいだっただろうか。

アツがナツいぜ。


とは言いながら、表向きは成績を上げたい、だったが、裏を返せばK先生に会う口実が欲しかったのだ。

ある意味、K先生の術中にハマってしまったかもしれないが。それはそれで良いということにしておこう。


「遊び」で済めばよかったものを、塾に通い始めてしまったことで、歯車が大きく狂う。


しかし、その時の私は、そんなことを知る由もない。




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