第1話 風
獣道を降り切ると、人一人が通れる程の崖に出る。
傍らの木に掴まり、崖下まで一気に降りる。
「え〜、ジイジ、大丈夫だってば!危なくなんか無いよ?」
小川沿いの小道を歩きながら、中空に語りかける少女。
「う〜ん、怪我なんかしないってば!」
傷だらけの右腕を擦りながら答える。
「ジイジに教えてもらった薬草がよく効くから大丈夫だってば!」
歩きながら手折った小枝を振りまわしながら、
「ほら、この木の皮も干して煮出せば怪我にもよく効くよね?熱冷ましにもなるし。」
少女の周りを、何かが通り過ぎていく。
「あ〜んもう、わかったわよ。危ないことはしないようにするからさ。」
辿り着いた廃屋の様な屋敷を通り過ぎ、裏手の小屋に入ると籠を降ろした。
屋敷は昨年の雪の重みに耐えられずに傾いだ為に放棄した。
裏手の小屋を補強はしたものの、少女の手には余る作業の為今年の冬超えは厳しいものになるだろう。
土間の笊に薬草の葉を並べる。
昨日干した葉が程良く乾燥していたので、傍らの壺に放り込む。
水辺で下処理した魚を腰に下げたカゴから取り出して、一匹だけ串に挿して囲炉裏の火を起こし、傍らの灰に差し入れる。残りは開いて塩を振り、網で包んで軒先に吊るした。
木の実と果実を分けて、すぐに消費するものと保存食に分けてカゴに入れる。
保存する壺を小屋の裏手の洞に運ぼうと表に出たところで、いつもと違う風と雰囲気を感じて空を見上げた。
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