日出卜英斗はもてなしたい
手に手を取って、これは愛の逃避行?
ノン! 絶対にノォ!
そんな訳で、俺は
――
「沙恋先輩、大丈夫っすか? なんか飲み物とか買ってきましょうか」
上手くハナ姉とまことを巻いたのも束の間、あっという間に沙恋先輩はへばってしまった。この人、本当にスタミナないなあ。
でも、本人もそのことは重々承知のようで、今は商店街のベンチにぐったりだ。
苦笑しつつ前髪をかきあげる、その姿だけは優美だけど。
なんだか呼吸が苦しそうだし、顔色も少し悪い。
「ふふ、ボクはね
「ちょっと?」
「うん、ちょっと。そう、かなりちょっと、凄く凄く、もの凄く
「へえ、それはビックリですねー」
思わず棒読みになる。
この間の第二体育館でも見た。
常軌を逸した身体能力と運動神経、そして卓越したテクニック……ああそれなのに、それなのに。残念ながら
よくゲームにいるよな、この手のキャラ。
凄く強いけど、一発屋? 的な。
ガッツがたりない! みたいな。
「ふう、少し落ち着いてきた……つくづく嫌になるねえ、体質ってのは」
「沙恋先輩、なにか病気とかあるんですか? あ、いや、すんません! 俺、つい」
「ああ、いいんだよ。ボクの場合、これで普通なんだ。生まれた時から持久力がない……そういうイキモノなんだよ? どうだ、参ったかー」
「いやそんな、へっぽこな感じで強がられても」
でも、ふと思う。
やっぱりどう見ても、沙恋先輩は痩せ過ぎてる。普段からデカくてムッチムチなまことを見慣れてるからか、本当に
白い肌に白い髪、まるで漂白されたようなシルエット。
それでいて、クルクルと輝きを変える真っ赤な瞳。
なんだろう、これで減らず口と謎の自信過剰がなかったら……
「で、どします? 先輩、どっか行きたいとこありますか?」
「……キミねえ、男の子だろう? デートってのは基本、最初は男の子が女の子をエスコートするものだぞ?」
「そ、そんなこと言われても……すんません、ノープランでした」
「そんなことだろうと思ったよ、ふふ。ま、ボクも迷惑をかけてしまったけどね。それに、今どきレディーファーストも度が過ぎれば時代遅れさ」
どうにか呼吸を落ち着けて、ポンポンと沙恋先輩が隣を叩く。
それで俺も、まずはベンチに腰を下ろすことにした。
「いいかい、英斗クン。デートの基本は『どこに行くか』じゃない。大事なのは『どう過ごすか』だ」
「はあ……なんか、ピンとこないんですけど」
「仲良くなったら、基本的には事前に打ち合わせするといい。実は、世の女の子たちは大半が……サプライズは苦手なんだよ?」
「えっ、そ、そうなんですか!?」
「
「く、靴の話ばっかですね」
「オシャレの基本は足元からだぜー? 基本だよ、基本」
そういう沙恋先輩は、裸足にスニーカーという自由っぷりだ。しっかし脚細いな……全然筋肉がついてるようには見えないんだけど。
「でも、初めての時はリードされたい。少なくともボクはそうかな。あと、多分ハナもね」
「そういうものなのか……」
「最初だけだよ、本当の最初だけ。誰にでも初めてがあるし、それを特別に思いたいのが乙女心なのさ」
「ふむ、なるほど」
「と、いう訳で、だよ? ボクをどこに連れてってくれるのかな?」
ぐっと身を寄せ、隣から沙恋先輩が顔を覗き込んでくる。
うん、完璧に可愛い。先輩しか勝たん。
けど、それで俺の純情が揺らぐようなことはない。
ただ、色々と参考になる話が聞けたのはよかったかな。それに、今日は俺が沙恋先輩をリードしなきゃ。それはいつか、ハナ姉との真の初デートに
俺はさてさてと思案を巡らせる。
沙恋先輩は、苦心する俺を見て嬉しそうに鼻を鳴らしていた。
「大事なのはね、場所じゃなくて時間なんだ。どういう時間を一緒に過ごしたいか……ファーストチョイスがいまいちだったとしても、最初だからこそいい思い出になるし、理解が深まるんだよ?」
「なるほど、じゃあ……ちょっと一緒に、あそこどうですか?」
まだまだ来たばかりの街で、それほど地理に詳しい訳でもない。
さりとて、渋谷や原宿に繰り出す度胸もないのが俺という男だった。でも、地元には地元の良さがある……そうさ、この間からここが俺の地元なんだ。
そう思ったら、自然と
商店街の中ほどにある、一番最初にお馴染みとなった娯楽のパラダイス……一緒にどうかと誘ったら、沙恋先輩は一瞬目を丸くしたが嬉しそうに
そういう訳で、この街で一番大きなゲームセンターにやってきた。
一応ゲーマーの端くれとして、引っ越してすぐにゲーセンとゲームショップは抑えておいたのだ。東京の片隅というか、割りと
沙恋先輩を連れてドアを開けると、すぐにピロリロピリカラと電子音が迎えてくれる。
ちょっと暗めな店内の照明も、いかにもって感じでイェスだね!
「ふむふむ、ゲームセンターね。いいんじゃない? ボク、嫌いじゃないよ」
「ども。でも、ハナ姉はどうかなあ……」
「まあ、普段は縁のない場所かもね。だからこそ、逆にいいとも思うし。言っただろう? 場所が重要なんじゃないって」
「どう過ごすか、二人で共有する時間が大事だってことですかね」
「そゆこと」
店内はまあ、ここ最近のトレンドもあってかビデオゲームはそこまで多くはない。
とはいえ、ちょっと奥に行くと見慣れた
ややレトロな名作から最新のカード読み込み型まで、多種多彩だ。
とりあえず、二人で遊べるゲームでもと思ったら……もう隣から沙恋先輩は姿を消していた。
「英斗クン、これは? ボク、わかってるよ……うんうん。男の子ってこういうのが好きなんでしょ? みたいな」
「あー、そこらへんは微妙に守備範囲外ですね。やってやれないこともないですけど」
客もちらほらいて、休日の朝からまあまあ盛況な店内。
沙恋先輩が興味を示したのは、ポリゴンキャラの対戦格闘ゲームだ。実写と
俺もやったことがあるが、どっちかというと2D格ゲーの方が好きだ。
今も対戦台の向こう側では、見知らぬどこかの誰かさんがプレイしている。
ちらっと見ただけでも、かなりやり込んでるゲーマーさんのようだ。
「どれ、じゃあちょっと対戦してみますかね。それとも、沙恋先輩やってみます?」
「ん? いやー、どうかなあ。ボクは遠慮しとくよ」
「いや、こないだ俺んちでまことをボコってたじゃないですか」
「同じ対戦ゲームでもさ……ちょっと、3Dのゲームは生々しいしね。あ! でも、あれかい? ははーん、さてはキミ……ちょっとエエカッコ、したかったかい?」
「いやいや、そういうのないんで。別に、ほんとないんで」
ニシシと笑って、沙恋先輩がまた肘で小突いてくる。
うん、本当にそういうのないんで。
俺が趣味といえる趣味はゲームくらいだが、それで優越感に浸って有頂天になれるほど能天気でもいられないんだな。なんていうか、見られて褒められるより、一緒にワイワイ遊びたいっていうか、盛り上がれれば勝敗や結果は二の次みたいなとこもある。
でも、上手く言語化できないまま財布から百円玉を取り出す。
とりあえずまあ、話の種にでもとコインを投入しようとした、その時だった。
「それよりさ、英斗クン。よかったら、一緒にあれをやろうよ」
腕に抱き着くようにして、沙恋先輩が身を寄せてきた。
ドキッ! としてしまう自分が恨めしい。
先輩が指さしているのは、億のキッズコーナーだ。
そして、よく見れば卓球台のような筐体が置いてある。
「エアホッケー……ああ、なるほど」
「ボクもね、ただ見てるだけってのは退屈だし、適当に褒めても面白くないし」
「あ、一応あれですか。俺がゲームしてるのを見て、よくある、なんつーか」
「キミだって、キャー英斗クンすてきー! とか言われて喜ぶ
「そりゃ確かに。んじゃま……ガチ勝負ですか?」
「もち、ガチだよん」
なんだか嬉しそうに腕まくりしながら、沙恋先輩はエアホッケーの筐体に駆け寄る。
単純なゲームで、プラスチックのディスクをお互いラケットで打ち合うゲームだ。アナログなところが奥ゆかしくて、
ワックスがけのブラシにも似たラケットを手にして、沙恋先輩はやる気満々だった。
「因みに英斗クン、せっかくだからなにか賭けようぜー?」
「えっ、いや、普通に嫌なんですけど。悪い予感しかしないし」
「えー、盛り上がるのにー? 例えばこう……負けた方が勝った方に愛の告白をするとか」
「いやいや、先輩相手にそれはないで、すっ! ねっ!」
しれっと先制攻撃してやった。
腰に手を当てエッヘン! と得意げだった沙恋先輩が表情を崩す。彼女のゴールにディスクが叩き込まれて、勝負が始まった。
卑怯だとか汚いとか言いつつ、満面の笑みがかわいいぜ……チョロいな、はっはっは!
だが、このあと俺は悪夢のような
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