やっぱり部活を作ります

 新たに学園長となった筋肉魔神みたいな男が語ったのは、以下のことだった。


・全学園生は一週間以内に何らかの部活動に所属すること。できなければ退学。

・新たに部活を作るハードルを下げる。法と倫理に触れない限りは基本的にどんなおかしな活動でも許可するが、部員が最低でも五名必要となる。一週間以内に五名集められればOK。

・顧問はなし。専門の指導や引率が必要な場合は独自にお願いすること。

・学園長がランダムに部活動を視察し、名簿に名前があるのにその場にいない者や、活動に消極的な者、活動内容などをチェックする。その際の何らかの累積点数によって、問題のある学園生には警告があり、改善されなければ退学となる。


「いや、おかしいだろ」


 俺は思わず芽多の方を見た。

 しかし芽多も、珍しく驚いた顔をしている。

 昨日、部活について話したばかりだったところに、突然の学園長交代と新しい規則の追加だ。あまりにもタイミングが良すぎる。芽多が何か絡んでいるんじゃないかと思ったんだが、このリアクションを見るとそういう訳でもないのか。


「なるほど……こう来るのね……」

「何がだよ?」

「私がシナリオ通りに動かないから、行動を強制するように製作者側が世界の方を捻じ曲げたのよ」

「んな馬鹿な」

「昨日の今日よ? それにいくら学園長だからって普通、こんな奇天烈な規則がまかり通ると思う?」

「ぐ……」


 残念ながら言い返せない。

 明らかに不自然で、おかしなことが起こっているのは確かだ。しかしだからと言って、芽多の言う通りにこの世界が恋愛ゲームの中だなんて話はあり得ないが。


「ま、こうなってしまったからには仕方がないわね。やっぱり部活を作るわよ」

「いや、なんでだよ」


 転校してきたばかりの芽多はもちろん、俺も修も、部活には入っていない。

 しかし別に自分たちで新たに作らなくても、適当なところに入ればいいだろう。

 それこそ今回の部活動立ち上げ緩和によって、『帰宅部』とかそういう楽そうな部を作る奴は絶対にいるだろうし。

 俺がそう言うと、芽多は呆れたように頭を振った。


「馬鹿ね。そんなの監査で一発アウトになるわよ。学園長の話をちゃんと聞いていなかったのかしら? 彼は学園生に対して青春を謳歌することを求めているのよ。それなら、そのニーズに合わせた部活動を作るべきだわ」


 言われてみれば確かに、芽多の言っていることには筋が通っている……ような気がする。


「そうと決まれば部員集めね。早速ポスターを作らなくちゃ」

「ノリノリだな、晴。本当は部活を作りたくて仕方なかったんじゃないのか?」

「そんなわけないじゃない。仕方なくよ」


 修に言われても認めないが、そのウキウキした態度から芽多の本音は透けて見えている。本当はやりたかったけど、いかにもシナリオ通りって感じで気に入らなかったから天邪鬼な態度を取っていたってところか。


「ま、適当に頑張ってくれや」

「何言ってるの友田。あなたも手伝うのよ。あと二人部員を集めないといけないんだから」

「……ちょっと待て。なんで俺たちが頭数に入ってるんだ」

「……? 逆にどうして入っていないと思ったのかしら?」

「そうだぞ龍。一緒に頑張ろうぜ」

「え、なに? 修もやる気なの? 俺がおかしいのか?」

「何事も、やってみなければ分からない。分からないなら……そう、やってみるしかないんだよ、龍」

「???」


 なんだかよく分からないノリで、俺は押し切られてしまった。

 まさか修までやる気になるとは。思わぬ誤算だ。


 放課後、俺たちは休憩スペースの机に椅子を寄せて集まっていた。

 周りには似たような集まりがいくつかあり、聞こえてくる会話から察するに、俺たちと同じように部活について話している人が多いようだ。部活に入らなければ退学というとんでもない規則が発表された割には、それに対してネガティブな感情を持っている人間は少ないように感じる。皆、どこかワクワクしたような様子で話している。案外、青春をやり足りないという奴は多いのかもしれないなと他人事のように思う。


「……で、どんな部を作るんだよ」


 俺が切り出すと、芽多は待ってましたとばかりに立ち上がった。別に立ち上がる必要はないと思うが、面倒なので指摘はしない。


「部活名はもう決めてあるわ。『メタ部』よ」

「だっさ」

「自分の名前を付けるとは……やる気満々だな、晴」

「ありがとう、修くん。友田は黙ってなさい」


 いやダサいだろ普通に。メタ部ってなんだよ。名前から活動内容が想像できないにも程があるぞ。

 ……と思ったが、黙ってろと言われたので黙っておくことにした。

 話が進まないしな。


「それでどんな活動をするんだ?」

「この世界で常識とされていることに対する懐疑の視点を持って、間接的にここが恋愛ゲームの中であることを検証していくのよ」

「ほう……それはなんとも……難しそうだな」

「大丈夫よ、修くん。私に任せておいて頂戴」


 何が大丈夫なのかよく分からないが、すごい自信だ。仮にこの世界が恋愛ゲームだと証明されたら、あらゆる秩序がひっくり返ってしまうと思うんだが……

 芽多も修も放っておけばボケ倒していくようなキャラなので、仕方なく俺も口を挟むことにする。


「具体的に何をするんだよ? あの学園長の視察をパスできるような内容じゃなきゃ意味ねーぞ」

「分かってるわよ。基本的には私がお題を出すわ。その後、部員たちでディスカッションをして、世界のあり方を見つめ直していくの。他には外に出て散策ね」

「散策?」

「気分と視点の転換よ」

「そ……そうか……」


 本人はいたって真面目なのかもしれないが、なんだろうな、まだ始まってもいないのにひしひしと感じるこの徒労感は。妙なごっこ遊びとしか思えないんだが……こんなんであと二人も部員が集まるのか?


「ふふ、友田は私の完璧なプランに言葉も出ないようね。それじゃあ申請用紙を提出して、ポスター作りに取り掛かりましょうか」

「そうだな。部長は晴でいいんだよな?」


 修がそう言うと、芽多は少し考えてから首を振った。


「いえ、できれば修くんにやって欲しいのだけれど」

「俺? どうして?」

「部活動中は『部長』と呼ぶのに、二人きりの時は『修くん』と呼ぶ……そのギャップが素晴らしいと思うの。思わない?」

「よくわからんが……まあ、いいか」

「ありがとう。それじゃあ活動内容を書いてと……」


 なんだかよく分からない理由で修が部長になってしまった。困ったな。ますます俺が辞めづらくなる。修の他に親しい友達なんていないからな……。


「それじゃあ、提出してくる」

「あ、私も行くわ」

「いや、出すだけだから二人もいらないだろ。それより晴たちは先にポスター作りを始めててくれ。その方が効率がいいだろ?」

「そ……それもそうね……」


 勢いよく立ち上がった芽多は修の正論にしょんぼりと座り直してから、なぜか俺の方を睨んできた。なんでだよ。お前が勝手に策を巡らせて自滅しただけじゃねーか。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る