ケイ子
蓮っ葉なしぐさで、ケイ子が煙草を吸う。その動作を、鏡太郎は茜と重ね合わせて眺めている。
「なに考えてるの?」
これまでの女と同じように、やはりケイ子も問うから、鏡太郎は端的に、女のこと、と答える。
「女?」
意外ね、と、ケイ子が笑う。
「女も男も興味なさそうなのに。」
そうね、と、曖昧に鏡太郎は応じる。女も男も興味はない。嘘ではなかった。
「じゃあ、そろそろ出かけるから。」
ケイ子が赤いワンピースの上に毛皮のコートを着ながら言う。
どうでもいい。鏡太郎の本音はそんなとこだけれど、適当な嘘をつくのはもはや身についた習慣だった。
「ちゃんと帰って来て。」
本当は、ケイ子が帰ってこようが来なかろうが大して気にもしないくせに。
ケイ子だってだってそれくらい分かっているだろう。タクシーを家の前に呼びながら、彼女はわずかに笑った。
男にも女にも、興味なさそうなのに。
合っている。大正解だ。
鏡太郎は男にも女にも興味はない。
行ってらっしゃい。
鏡太郎はただただケイ子を見送る。なににも興味なんかないくせに。
ケイ子はその晩、帰らなかった。鏡太郎はやはり、どうでもいいような気がして、布団に腹ばいになって煙草をふかして夜を明かした。
昼頃になって、ケイ子が戻った。酒の匂いをさせていた。
「お客さんがね、朝まで呑むって離してくれなくて。」
誰にともなく、ハイヒールを脱ぎながらケイ子が呟いたが、鏡太郎は聞いてもいなかった。
ケイ子はなにやら不機嫌そうな顔をした。
鏡太郎は気が付かないふりをした。
これまで一緒に住んだ女は、どれもこういうことをした。鏡太郎がするべきことは、女の頬を打って、仕事が終わればさっさと帰ってこい、と声を荒げることなのだろうが、鏡太郎にとって、それはひどく面倒なことだった。
「明日も遅くなるわ。同じお客さんが来るから。」
ケイ子が言うが、それも鏡太郎は気が付かないふりをして煙草をふかす。ケイ子の不機嫌はますます深さを増すが、それも頬で適当に受け流す。
「帰ってこないかもね。もう。」
今度のそれは、誰にともなくではなく、明らかに鏡太郎に向けて発しられたのだが、それでもなお鏡太郎の聞こえないふりは続行された。
帰ってこないなら、他の女を探すだけ。それくらいのことが、ケイ子に分からないはずもなかろうに。
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