第25話

「急に……なに?」



「《リプレイ》をやらされて思ったんだ。命には限りがあるんだって。



だったら、死ぬ前にダメもとでも何でもやってみないとダメだなって……今、思って」



続の言葉にあたしは困惑した。



そんな事、どうして今言うの?



それじゃまるで次に死ぬのは続のような……。



そこまで考えて、ハッとした。



続が座っているのはあたしが座っている席から一列開けた椅子だ。



入学式ではたしか女子2列、男子2列で並んで座っていた。



続が座っている場所は男子の列。



本来なら正しい場所に座っているが、あの日続がリンちゃんとして入学式に臨んでいた。



と、言う事は……座る場所が違うんだ!!



「続……まさか、わざと!?」



あたしはガタンッと椅子を鳴らして勢いよく立ち上がった。



真っ直ぐに続に向かって歩く。



「ねぇ、どうしてそんな事……!」



続の肩を掴んで振り向かせた瞬間、あたしは言葉を失った。



続の目に光る涙。



それがこぼれないように懸命に我慢しているが、それは頬を伝って流れて言った。



そして……あたしは続から手を離し、後ずさりをした。



続の頬に流れる黒い涙。



化粧が剥げた目元……。



「続は、入学式の時から奏ちゃんの事が好きだったよ」



無理のない、高い声。



「リン……ちゃん……?」



あたしは目の前の人物に唖然として目を見開いた。



男の化粧をして、男のように声を低くしていた彼女が、目の前にいた。



「ずっと一緒にいたけど、『久しぶり』って言った方がいいかな?」



リンちゃんは小首を傾げてそう聞いてきた。



「な……んで?」



後ずさりをして、椅子を蹴とばしてこけそうになる。



どうにか体制をたて直し、あたしはリンちゃんを見た。



「あの日、川で死んだのは続だったの」



リンちゃんはそう言い、スマホでさっきの動画を流した。



画面の中では信一と真が1人の人物を川から引きあげている。



「あたしがイジメにあっているのを見かねた続が、この日もあたしの代わりに2人に呼びだされた場所へ行ったの。



呼び出したのは男2人だし、あたしが乱暴されると心配したんだと思う。



でも、違った。あの2人は水アレルギーのあたしを川へ突き落すつもりでいたの。



そして、突き落とされたのは、同じアレルギーを持っている続だった……」



リンちゃんは囁くような声でそう言った。



画面の中で息絶えているのは、続……!?



「あたしは続の事が心配で途中から川へ向かったの。でも、遅かった……。あたしが行ったときにはもうこの状態だったの」



「まさか、その動画を撮ったのって……」



「あたしよ」



リンちゃんは頷いてそう言った。



「奏ちゃんの想像通り、あたしが出て行けば今度はあたしが犠牲になる。そう思って出て行くことはしなかったの。



千鶴のいいなりの2人だから、きっと攻撃してくる。そう思って」



そう言い、リンちゃんはスマホをポケットにしまった。



「この部屋を作ったのは……?」



「あたしの……新しいお父さん。千鶴の家の何倍もの収益を持つ、大企業の社長なの。まだ誰にも話してなかったけど」



リンちゃんの……新しいお父さん……。



あたしは自分の体から力が抜けていくのを感じ、膝をついた。



「続は……もう死んでたんだね……」



ここへ連れてこられてから、続へ惹かれて行っていた自分がグズグズと崩れ落ちていくのを感じる。



「ごめんね。奏ちゃんには、それが一番つらいと思う。でも、続の気持ちはちゃんと伝えてあげたかったの」



「……続は、本当にあたしの事が好きだったの?」



そう聞くと、リンちゃんは迷うことなく頷いた。



「続との会話の中には必ず奏ちゃんの話が出て来てた。入学式で話しかけてもらえた時から、ずっと奏ちゃんの事が好きだって言ってた」



その言葉にあたしの胸は熱を帯びる。



しかし、その続はもうこの世にはいないのだと思うと、途端に胸の熱は凍てついた。



「あたし、続の仇とる事を決意したの。



あたしのために死んで行った続のために、全員に罪を償わせようと思って……でも、続が好きだったあなたを殺す事は、どうしてもためらわれた……」



リンちゃんはそう言い、あたしに手を伸ばした。



咄嗟に後ずさりをして離れるあたし。



「大丈夫だから」



リンちゃんはそう言い、もう一度あたしに近づいた。



逃げたい気持ちをグッと我慢してあたしはリンちゃんの手が近づいてくるのを見ていた。



リンちゃんはあたしのポケットからスマホを取り出すと、それを膝で思いっきり割ったのだ。



バキッ!



と音がして、スマホの画面が真っ二つに割れ、機械の内臓が出る。



画面は暗転し、×マークも消えた。



「みんなのスマホに送信したこの×マークが反応して、みんなを殺していってたの」



リンちゃんは壊れたスマホを床に落としてそう言った。



「《リプレイ》が正確かどうかを見ていたのはこのあたし。一番正解率が低かった人のスマホに体へ直接的に作用させることのできる電波を送り、殺してた」



「……放送の、声は……?」



「あれは元々の録音だよ。あたしがタイミングを見計らって流していただけ。それに、あの時計もスイッチ1つで動かせるの」



そう言い、リンちゃんは自分のスマホを見せた。

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