第22話

あたしと続は千鶴の死体を信一の横に並べ、そしてあたしの上着を顔の上にかけた。



4人の遺体が教室のすみに並ぶ。



その光景はまるで、教室自体が真っ白な棺に見立てられて作られているようにも見えた。



「……本当に、千鶴のお父さんがこの部屋を作ったのかな?」



あたしは千鶴をみおろしてそう呟いた。



千鶴の父親が犯人なら、もしかしたら千鶴は生き残るんじゃないか。



心のどこかでそう思っていたのだ。



だけど千鶴は死んだ。



みんなと同じように。



容赦のない制裁に、あたしは自分もここを生きて出る事は出来ないだろうと言う事を悟っていた。



「なぁ……これ、見てくれ」



続の声にあたしは振り向いた。



続は血に濡れた手でスマホを持っている。



「なに?」



近づいてその画面を覗きこみ、それと同時に息を飲んだ。



続のスマホの画面には大きな×マークが出ているのだ。



3Dのように立体的に映し出されている×マークは、クルクルと回転している。



「なにこれ、続趣味悪いよ」



「俺じゃない! 時間を確認しようとして見てみたら、こんなのマークが出てたんだよ」



そう言う続に、あたしは慌てて自分のスマホを取り出した。



画面を確認すると、同じマークが浮かび上がっているのがわかった。



もちろん、こんな画像をダウンロードした覚えはない。



「いつからこんな画像が出てるの?」



「わからない」



続は左右に首を振る。



そして、千鶴や信一のポケットをさぐりスマホを取り出しはじめた。



あたしは有紀のポケットに手を入れて、それを取り出した。



画面には同じマークがクルクルと回っている。



「全員のスマホに画像が送られてきてる……」



続が呟く。



「でも、この教室に電波はないよ?」



「あぁ。だけどここは犯人が作った教室だ。この画像を送るために一旦電波を通す事くらいできるだろう」



「このマークどういう意味なんだろう……」



そう呟き、画面に触れようとする。



その瞬間、続が「やめろ!」と、声を上げた。



「意味がわからないのに安易に触っちゃダメだ」



「ご、ごめん」



謝ると同時に、続がまだあたしの事を心配してくれていると言う事が嬉しくなった。



自分の醜態をすべてさらけ出しても、続はあたしを見てくれているのかもしれない。



続は千鶴の死体に近づき、その指を握った。



そして、その指でスマホに触れた。



「何か起こった?」



「……いいや、画面は何も変わらない」



「ねぇ、そのスマホって続のだよね? 千鶴のスマホでやってみたら?」



あたしがそう言うと、続が赤色のスマホに持ち替えた。



そして、千鶴に触れさせる。



すると、画面が一旦暗くなりその中に暗号を入力。



と書かれた画面が浮かび上がって来たのだ。



「暗号……?」



続が首を傾げる。



あたしは画面上に何か文字が浮かんでいるのを見つけた。



スマホを傾けたり、横から見ると浮かびあがってくるようになっているみたいだ。



「その画面、【ス】って書いてある」



「え?」



「ほら」



スマホを少し傾けて続に見せる。



すると、画面の真ん中に大きく【ス】の文字が見える。



「これが暗号のヒントってことじゃないかな?」



あたしがそう言うと、続は今度は自分のスマホを取り出して自分でその画面に触れた。



画面はさっきと同じように切り替わり、【リ】の文字が浮かんで見える。



「みんなのスマホで文字を確認して、つなぎ合わせれば次のページに飛べるのかもしれないぞ!」



「うん」



あたしは頷き、自分のスマホに触れた。



文字は【ネ】だ。



続いて有紀のスマホを有紀の指を使って触れる。



文字は【ズ】。



「信一の文字は【ン】。真のは、【×】マークだ」



「【スズネリン×】……」



あたしはそう呟いた。



「まずは俺が入力してみる」



続がそう言い、スマホに【スズネリン×】を入力した。



画面はすぐに切り替わり学校の近くの川が現れた。



最初は写真かと思ったが、よく見ると川の付近で黒い影が動いているのが見えた。



「これってもしかして……」



あたしは千鶴から聞いた話を思い出していた。



信一と真はリンちゃんを川でおぼれさせた。



そして、その動画を撮影していたと……。



しかしどちらかが動画を撮影していたのなら、全員の影は映らない。



それに、この動画はかなり遠くから撮影されている。



「あの時、3人以外に誰かがいたんだ……」



「あぁ。念の為、奏も暗号を入力してみてくれ」



続にそう言われ、あたしは自分のスマホに【スルネリン×】と入力をした。



すると、同じ動画が流れ始める。



夕方なのか、周囲は薄暗くて信一たちの顔もハッキリとは見えない。



けれど、川から何かを引きあげているような様子がわかった。



これはきっとリンちゃんだ……。



思いがけず死んでしまったリンちゃんを慌てて川から引きあげている。



そんな様子がリアルに浮かんできて、あたしはその想像をかき消した。



「誰がなんのためにこんな画像を……」



ずべてを見終わった続がスマホをポケットへ戻してそう呟いた。



あたしのスマホではリンちゃんが岸に寝そべり、動いていない様子が映し出されている。



信一と真とみられる2人の影があわただしく動き出す。



そして、画像はプツリと途絶えた。



「リンちゃんを助けるために誰かが撮影したのかな……」



「助けるつもりなら、2人の間に出て行けばいいだろ?」



「でもそれができない人もいると思う。



単に勇気がないだけじゃなくてさ、たとえば女の子とかだったら、出て行ったときに返り討ちに会うかもしれないじゃない」



「だったら動画なんて撮らなくても、誰かを呼んでくればいい」



「それはそうだけど……」



リンちゃんがもう亡くなっていると目で見てわかったから、犯罪の証拠を撮る方を選んだ可能性だってある。



けれど、続のイライラしたような表情を見て、あたしは口をつぐんだ。

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