第17話

「あたしが嫌いだって言ってるんだから、手伝ってよ」



千鶴がゆっくりとあたしたちに近づいてくる。



「なんであんたに手伝わなきゃいけないの?」



有紀が聞く。



「あたしは社長令嬢なんだよ? あたしのいう事は大人でも聞いてくれる」



自信満々にそう言い切る千鶴。



あたしはおかしくなって、思わず笑ってしまった。



いくら千鶴が社長令嬢でも、そんな事あたしには関係のないことだから。



「なにがおかしいの!?」



「あたしたち、会社の人間じゃないもん」



あたしがそう言うと、千鶴は目を吊り上げて睨み付けてきた。



今まで周囲の人間はなんでもいう事を聞いてくれてきたのだろう。



それが通用しない場面に直面して、どうすればいいのかわからなくなっている様子だ。



千鶴の仲間たちだって、きっとお金で動いているだけだろう。



「そういう事だから」



有紀がそう言い、掴まれていた腕を解いて歩き出す。



高校生にもなってイジメなんて幼稚すぎる。



そう思った時だった……。



タバコのにおいがしてあたしは顔をあげた。



見るといつの間にか千鶴がタバコを口にくわえている。



次の瞬間、あたしの腕にその火が押し当てられていたのだ。



突然の事で一瞬目の前は真っ白になり、次に痛みが走った。



「きゃぁ!!」



悲鳴をあげて逃れようとした時、千鶴の仲間が後ろがら羽交い絞めにしてきた。



「ちょっと、何してんの!?」



あたしの悲鳴を聞いた有紀が慌てて戻ってくる。



「有紀! きちゃだめ!」



そう言った瞬間、今度は首に痛みが走りあたしは天を仰いで呻いた。



「奏!」



それを見た有紀が駆け寄ってきて、仲間の1人に同じように捕まってしまった。



このままじゃ有紀まで同じ目に合ってしまう!



そう思ったあたしは咄嗟に「協力する!!」と、叫んでいたのだ。



千鶴がその言葉にニヤリと笑う。



「ちょっと、卑怯じゃない!!」



有紀が暴れて逃れようとするが、今度はそう簡単には逃がしてもらえない。



すると千鶴が今度は有紀へとタバコの火を近づけたのだ。



有紀の目の前にタバコをかざし、「目、潰しちゃおうか?」と、仲間に聞く千鶴。



仲間は面白がって千鶴をはやし立てる。



タバコの火が有紀の右目にゆっくりと近づいていく。



「やめて……!」



有紀が叫び、身をよじる。



「やめてほしい?」



千鶴が小首を傾げてそう聞いた。



「あたしね、どんな事をしても大抵許されちゃうの。パパが警察の上の人ともとっても仲がいいから。


だからね小学生の時にバレた万引きも、中学生の時に殺した動物も、全部なかったことにしてもらえた」



千鶴はそう言いながらクスクスとおかしそうに笑う。



「ここであなたの目を潰してもまたパパがもみ消してくれる」



そう言いながら、有紀の目に触れる数センチ先でタバコを止めた。



有紀にはタバコの先の真っ赤な炎が燃え盛っているように見えているだろう。



その目から一筋の涙が流れた。



「わかった……千鶴に協力する……」



その涙は恐怖の涙だったのか、なにもできない自分を責めて泣いたのか……。



千鶴たちが帰って行った後も、有紀はなかなか泣き止まなかったのだった。

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