第16話

それからすぐ、いつものようにスピーカーから機械音が聞こえて来た。



《それでは次の《リプレイ》です》



「きた……」



続がスピーカーを睨み付けて呟く。



《先月のお葬式の様子を《リプレイ》してください。相談時間は30分です》



お葬式!?



あたしと続は目を見交わせる。



今までは学校での出来事だったのに、突然葬儀にかわるとはいったいどういう事なんだろう?



あたしは千鶴を見た。



千鶴は青い顔をしてうつむき、小刻みに震えている。



「確かに先月は葬儀があった……」



あたしは千鶴へ向けてそう言った。



千鶴はハッとしたように顔をあげる。



その目には涙が浮かんでいた。



「クラスメートの鈴音リン(スズネ リン)ちゃんが……自殺したから」



あたしがそう言うと、千鶴はビクッと体を震わせた。



もし、今までの《リプレイ》に鈴音リンが関係しているのだとすれば……この《リプレイ》はあたしたち全員に制裁を与えるためのものだ。



「あの子の葬儀って、どうしてだ?」



ただ1人、事態を理解していない続が混乱した声を上げる。



「リンちゃんはね……イジメられて自殺したの。あたしたちの手によって」



あたしはそう言い、自分の手を見下ろした。



あたしはこの手で彼女の髪の毛を引っ張り、頬を叩いた。



その時の光景は今でもリアルに思い出すことができる。



雨が沢山降っている夕方の校舎は誰もいなくて、逃げるリンちゃんをあたしたちは取り囲み、そして暴行を加えたんだ。



その時に……有紀も、いた。



有紀は逃げるリンちゃんを足をひっかけて転ばせ、その体に馬乗りになっていた。



『ここにいたよ!』



獲物を捕まえたと知らせる有紀の声が脳裏によみがえって来る。



「イジメ……?」



続が目を見開いてあたしを見る。



あたしは小さく頷いた。



本当はイジメなんてしたくなかった。



有紀と2人でメンバーを抜けようと思っていた。



でも、その前にリンちゃんは自分から命を絶ってしまったんだ。



助ける暇も、メンバーから抜ける事もできないまま……。



「千鶴。この《リプレイ》はあたしたちに罰(×)を与えるための《リプレイ》だよ」



「そんな……!」



千鶴の声は情けないほどに震えている。



千鶴は自分がイジメの中心だったことをしっかりと理解している、ということだ。



「千鶴、教えて欲しい事がある」



あたしは千鶴の前に立ってそう言った。



教室内でリンちゃんに対し威圧的な態度を取っていた千鶴が、今は小さくなっている。



「今までの《リプレイ》は一体なんだったの?」



「し……知らない!!」



千鶴は叫ぶようにそう言い、ブンブンと左右に首を振った。



まるで子供が駄々をこねているようだ。



「嘘つかないで。すべてにリンちゃんの事が関係しているとしたら、一番よくわかってるのは千鶴でしょ? あんたが、リンちゃんイジメを周囲に強要してたんだから」



あたしは自分がやられた事を思い出して拳を握りしめた。



あれは2年にあがってすぐの事。



あたしと有紀は千鶴に呼ばれて校舎裏へ向かったんだ。



千鶴はクラスのリーダー的存在で、とっても目立っているのはわかっていたから、あたしたちは千鶴の機嫌を損ねないよう、言われた通り校舎裏へと来ていた。



有紀とはまだほとんど会話をしたことがなかったから、2人で戸惑っていたのを覚えている。



その時、千鶴が中の良いクラスメートの女の子たちと一緒にやってきたのだ。



みんな派手なメイクや髪型をしていて、そこに立っているだけで威圧感を覚える。



その中心に、千鶴は立っていた。



「用事って、なに?」



そう聞いたのは有紀だった。



あたしは有紀の後ろから千鶴を見ていた。



「あなたたち、鈴音リンをどう思う?」



突然そう言われ、あたしは「え?」と、首を傾げた。



2年にあがったばかりでクラスメートの事はまだよくわからない。



そんな時だったが、リンちゃんが学年1位の成績を持っている事だけは知っていた。



1年生の頃からその順位が変動したことがないらしく、学校内でも有名な子だ。



2年に上がって同じクラスになったが、リンちゃんとはまだ一度も会話をしたことがなかった。



リンちゃんが暗いとかいうわけではなく、リンちゃんの持っている大人っぽい雰囲気でなかなか近づけないのだ。



「あたし、あの子嫌いなんだよね」



千鶴がそう言ったので、あたしは大きく目を見開いた。



「どうして? あの子はとてもいい子だよ」



有紀がそう言う。



有紀は何度かリンちゃんと会話をしたことがあるみたいだ。



「あたしはあの子に彼氏を取られた」



千鶴が有紀を睨み付けながらそう言った。



「取られた?」



有紀が聞き返す。



「1年の時にね。それからずっとあたしはあの子の事が大嫌い!」



口調を強くしてそう言う千鶴。



リンちゃんが人の彼氏を取るとは思えない。



でも、男の子がリンちゃんに惹かれるのはよくわかった。



成績がいいだけでなく、とても美人だからだ。



色白で透明感のある肌に、細く長い手足。



大きいけれどたれ目な彼女は、守ってあげたいと思わせる外見をしている。



対して千鶴は美人だが性格のキツさが外見にも現れている。



きっと、千鶴の彼氏がリンちゃんを好きになってしまい振られたのだろう。



千鶴はそれを根に持っているのだ。



「あたしは、別にリンちゃんの事を嫌いじゃないよ」



あたしがそう言うと、「あたしも」と、有紀が言った。



その瞬間、千鶴の表情が険しくなった。



何をする気か知らないけれど、千鶴に関わるとろくでもない事が起きそうだ。



そんな気がして、あたしと有紀はその場を後にしようとした。



……が。



「待てよ」



千鶴のそんな声と同時に、千鶴の仲間に腕を掴まれあたしと有紀は立ち止まった。

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