第18話

その翌日から、リンちゃんへの壮絶なイジメは始まった。



クラスメートの大半は千鶴の味方についていたため、リンちゃんと一緒にいるのは1人か2人だけだった。



最初は机の中に嫌がらせめいた手紙を入れる所から始まった。



リンちゃんがその程度じゃ動じないとわかると、次は小さな虫を机の中の入れるようになった。



リンちゃんの驚いた顔を見て、千鶴はすごく満足そうに笑っていた。



だけどその行動はまだまだエスカレートしていった。



虫に飽きた千鶴は、今度は殺した動物をリンちゃんの机に入れるようになったのだ。



教室の中は血と肉の悪臭が充満していて、あたしも有紀も何度も吐き気を感じていた。



それでもリンちゃんは学校に来続けていた。



前より少し元気はなくなったけれど、成績も落ちない。



そんなリンちゃんを見ていてだんだんと千鶴は機嫌を悪くしていった。



千鶴はリンちゃんを学校から追い出したいのだろうが、リンちゃんはめげずに登校して来ている。



どうすればリンちゃんを不登校にすることができるのか、考えているようでもあった。



その時あたしと有紀は、陰から千鶴をサポートするような役割をしていた。



例えば、千鶴が野良犬を殺す時周囲に誰もいない事を確認したり、リンちゃんの苦手なものを探ったりしていた。



表だって何かを手伝うことはなかったけれど、それでもイジメに加担しているというストレスは十分感じていた。



そして、何匹犬や猫を殺してもその事件自体が噂にもならない事から、千鶴の親がどれほどの権力者なのかと身に染みて理解できるようになっていた。



千鶴に逆らう事は許されない。



逆らえば、あの犬や猫のようになってしまう。



だんだんとそんな考えになってきていた。



逆に、千鶴の言う通りに動いていれば有名な会社のチョコレートを食べさせてもらえたり、



手に入らないと言われている映画のチケットを譲ってもらえることもできた。



今思えば、それはただあたしたちを利用するための獲ずけだったに過ぎないが、その時のあたしはそんな事を考える余裕もなかった。



気が付けば、あたしと有紀は完全に千鶴の仲間になっていたのだった……。


☆☆☆


つい数か月前まで行われていた陰湿なイジメを思い出し、あたしは涙を流していた。



今こうして罰を付けられて死ぬと言う事が、あまりにも自分に当てはまりすぎていて、悲しくなった。



「千鶴。昼休みに信一と真が喧嘩をしていたのはどうして?」



あたしはそう聞いた。



千鶴は青い顔をしたまま、ゆっくりと口を開く。



「リンの事で……」



その言葉にあたしは頷いた。



やっぱり、そうだと思っていた。



千鶴の事が好きなあの2人が、リンちゃんイジメを加担していないはずがない。



「あの2人はリンちゃんに何をしたの?」



そう聞くと、千鶴は頭を抱えて身を縮め「言いたくない!」と叫んだ。



「千鶴、あんたが指示を出したんでしょう!?」



「自分だけ逃げれると思うなよ」



続が千鶴を見下ろしてそう言った。



あたしたちがリンちゃんにしてきた事を知って、続は今どんな気持ちでいるんだろう?



きっと、幻滅しているんだろうな。



あたしのことも、もう好きじゃないかもしれない。



そう思うと少しだけ胸が痛んだが、あたしなんかが誰かに好かれる事自体おこがましいのだ。



あたしはやってはいけないことをしてしまった。



脅されても屈しない心を持っていればよかったのに、あたしにはそれがなかった。



それは、千鶴と同じ罪になる。



言い訳なんて、許されない事だ。



「言えよ!!」



続が怒鳴り、頭を抱えている千鶴の腕を引きはがす。



「嫌だ! 言いたくない!!」



ジタバタと抵抗する千鶴を、あたしは床へと押し付けた。



座っていた椅子が倒れ、大きな音を立てる。



「あんたがやったことがリンちゃんを自殺へ追いやった。だから、この《リプレイ》は始まったんだ!!」



あたしはそう怒鳴り、千鶴の頬を殴った。



自分でも驚くほどの力が出ていて、千鶴は鼻血を出した。



「……っ」



「あたしもきっとここで死ぬ……」



「……川でおぼれさせて……それを動画配信した……」



千鶴が震えながらそう言った、



あたしは唖然として千鶴を押さえつけている力を抜いてしまった。



「嘘だろ……」



続が悲痛な声を上げる。



リンちゃんが水アレルギーだということは、クラス全員が知っていることだった。



シャワーを浴びる事が命にかかわることだと、みんな知っていた



そんなリンちゃんを川でおぼれさせた……?



信じられなくて、あたしは千鶴から離れて後ずさりした。



千鶴は倒れたままうずくまり、泣き始めた。



「最低だな、お前」



続の冷たい声が千鶴に降り注ぐ。



「まさか、リンちゃんが死んだのって……」



そこまで言ってあたしは口を閉じた。



あたしたちはみんなリンちゃんは自殺だと聞いていた。



地上120階の高層ビルから飛び降りたため、遺体は原型を止めていなかったと聞いていた。



でも、それが嘘だったら?



千鶴の親なら高校生1人の死をでっち上げるくらいできるかもしれない。



それを利用して、リンちゃんが川で死んだ事を隠していたとしたら?



そしてあの日の昼休み。



リンちゃんが死んだ本当に理由を知っている信一と真の2人が、何かに耐えられなくなって喧嘩を始めたのとすれば……?



すべてのつじつまが合う。



信一と真の喧嘩はリンちゃんの死。



だから喧嘩をしながらも言葉を選び、周囲に悟られないようにしていたんだ。

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