第10話
それから信一が外へ向けて助けを呼んだ。
これで2度目だけれど、外からの反応はなにもない。
最初はいい案だと思っていた事だけれど、2人が死んでしまった今、それにも効果なんてないんじゃないかと思い始めていた。
すべてがマイナスの方へ進んで行っているように感じられる。
「ねぇ……思ったんだけどさ」
ずっと黙っていた千鶴が顔をあげてそう言った。
ずっと泣いていたせいで鼻声になっている。
「なに?」
すぐにそう聞いたのは信一だった。
「スピーカーの声の主は、この部屋の中が見えているんだよね?」
「あぁ……そうだな」
信一が頷く。
どうやって2人を殺したのかはわからないが、《リプレイ》を見ていたから1人を選んで殺す事が出来たことには間違いない。
「それって、どこから見てるの?」
千鶴の言葉に一瞬にしてその場が凍りついた。
さっき教室内をくまなく探したけれど、監視カメラのようなものはどこにもなかった。
もしかしたら、あたしたちが見た事もないような小型カメラかもしれない。
でも、どこにそれがあるのかは、わからない。
途端に誰にどこから見られているかわからない気持ち悪さが体中を駆け巡った。
「どこかに、カメラが……」
あたしはそう言いながら教室の中を見回した。
「それってどこ!?」
千鶴が叫ぶ。
「わかんないよ!」
あたしも大きな声で返した。
「あたしたちの事を見ながら犯人は笑ってるんだ……」
千鶴は呟くようにそう言った。
最初、続は千鶴が犯人に最も近いと推測していたが、今まで見ていると犯人とは一番遠い存在に見えていた。
「大丈夫だよ千鶴。まだ俺がいるから」
信一がそう言い、千鶴をなだめる。
「『まだ俺がいる』って、どういう意味だよ」
そう言ったのは続だった。
続は険しい表情を信一へ向けている。
「まさかお前千鶴を守るために自分を犠牲にするんじゃないだろうな?」
あたしが思っていた事を、続が言った。
信一は続を睨みつけるようにして見上げた。
「好きな子を守ってなにが悪い」
「お前も、真と同じか」
「なんだよ。続だって奏を守りたいんだろう!?」
「守りたいさ!! だからこそ、犠牲になろうだなんて思わない! 奏を1人にはしたくないからな!」
続の言葉にあたしの目には涙が浮かんでいた。
今まで続の気持ちなんて知らなかった。
普通に暮らしていればずっと気が付かなかったかもしれない。
それが、こんな形でわかるなんて……。
「一緒に、全員でここを脱出しよう。俺たちを見て今も笑ってる連中がいるなら、みんなでそいつらの事をぶっ潰そう」
続の言葉を聞いて信一の目の色が変わった。
自分が犠牲になることでしか千鶴を救えないという考えから、少しだけ光がさしこんだように見えた。
信一は立ち上がり、そして教卓の上に上がった。
ノートをラッパ状にして、また叫ぶ。
残りの4人全員で、この建物から脱出するために……。
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