第7話

みんなが有紀の死体を囲み、動けなくなっていた。



目の前でクラスメートが苦しんで死んだのに、あたしは何もできなかった。



続のように×印を塞ごうだなんて、考えも及ばなかった。



そんな自分に落胆しながらも、何もできなくても当然だと思っていた。



突然こんな場所に連れてこられて、手も触れずにクラスメートが殺されたんだ。



あたしに何ができたというんだろう。



「……これからどうすればいいの?」



あたしはそう呟いた。



ドアも窓も開かない。



助けも来ない。



周囲には友人の死体がある。



そんな教室にいるだけで発狂してしまいそうな精神状態だった。



続がポケットからスマホを取り出して時間を確認した。



「夜の7時を過ぎたところだ……。どうすればいいか、少し冷静に考えようか」



ここで目が覚めてから1時間くらいしか経過していない。



それでも、あたしの体はグッタリと疲れていた。



「冷静に考えたってどうにもならない。ドアも窓も、床も天井も壊す事はできなかった」



真がそう言い、散乱したままの教室内を見回した。



机や椅子を使ってあちこち殴りつけていたが、どこも傷1つついていない状態だ。



「たとえば、無理やり開けるのは無理でも隠し扉があったりしないかな?」



そう言い、続は立ち上がった。



前方の壁から後方へとゆっくり歩きながら腕で押したりして確認をしている。



それ見てあたしは床に這いつくばった。



続の言う通り普通じゃ見つけられないドアがどこかにあるかもしれない。



「じゃぁ、あたしは天井を調べる」



千鶴がそう言い、教卓の上に乗った。



すると真が慌てて「俺がやるから!」と、千鶴を机から下ろした。



「そうだね。千鶴は床を調べるのを手伝ってくれる?」



「わかった」



「それなら、俺が真と一緒に天井の半分を調べる」



と、信一。



こうして、あたしたちはそれぞれに教室の中をくまなく探す事にしたのだった。


☆☆☆


それから数十分後。



あたしたちは教室内のほとんどの場所を探し終えていた。



続の言葉で少しだけ生まれていた期待が、探すたびに薄れていくのがわかる。



疲労ばかりが蓄積されて、肝心の出口は見当たらない。



「ないね……」



床を最後まで調べ終えたあたしは脱力してその場に座り込んでしまった。



「全然ダメじゃん」



千鶴はそう言い、イライラしたように床を蹴った。



「天井も、開きそうな場所はどこにもないな」



真がそう言い、信一が肩を落とした。



「続、壁はどう?」



千鶴にそう聞かれ、教室の前方にいた続がこちらを振り向いた。



その目にはほんの少し輝きが見えた気がして、あたしは立ちあがった。



「なにか見つけたの?」



「あぁ。あれを見てくれ」



続はそう言い、壁の上の方を指さした。



それに導かれるようにして視線をやると、そこには小さな換気扇が付けられ、羽がクルクルと回っているのが見えた。



「換気扇……?」



千鶴が首を傾げる。



「そうか。その換気扇の穴から外へぬけようって言うんだな?」



信一がそう言い、続へ駆け寄った。



あたしたちも、後を追いかける。



換気扇の真下に来てみると、その穴の小ささがよくわかる。



30センチほどの四角形で、男子の体は通らないだろう。



「でも、換気扇の外は地上何十メートルあるかわからないかもよ?」



そう言ったのは千鶴だった。



確かに、換気扇の向こう側が建物の外に直接通じていたら、外へ出る事はできない。



空気を送り込むための通路がどこか別の、安全な場所へ通じていなければ、脱出はできない。



そしてその可能性はとても低い。



だけど続は目を輝きを失わせない。



その理由がわかったのか、真が口を開いた。



「いや……外へ通じているなら、どこかに声が届くかもしれない」



「そうなんだよ、真」



続が頷く。



「あたしたちの声が届く……?」



「あぁ。換気扇の羽を外して、机に上って近づく。それから教科書やノートを丸めてマイク代わりにするんだ」



「そんなのでうまく行くの?」



千鶴が半信半疑な様子でそう聞いた。



「わからない。マイク代わりに紙を使ったって大したことはないだろうし、下まで届くとは思えない。



運よく、高いビルにいる人に声が届くか届かないかってところだと思う」



続は面々を見回しながらそう言った。



「それでも、なにもしないよりはマシだな」



そう言ったのは信一だった。



信一の手にはすでにノートが握られている。



「この中で一番声が出るのは運動部の俺だろ? 俺がその役目を引き受けるよ」



信一の言葉にはあたしは頷いた。



「あぁ。頼むよ」



続もそう言って頷く。



信一は机に乗り、換気扇の羽を取った。



できた空間にラッパ状にしたノートを差し込み、大声で叫ぶ。



思わず耳をふさぎたくなるような大声に、あたしと続は目を見開いた。



普段は千鶴のそばにいるだけでそれほど目立つ存在じゃないけれど、今の信一には逞しさを感じられた。


「これなら誰かが気が付いてくれてるんじゃない?」



信一が何度か叫んだあと、あたしはそう言った。



「あぁ」



続が頷く。



「時間を置いて、またやってみよう」



信一はそう言い机から下りたのだった。

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