第5話

ドアの前から動いていいのかどうかもわからず、そのまま数分が経過した。



いい加減文句の1つでも言いたくなった時、スピーカーからあの声が聞こえて始めた。



《リプレイお疲れさまでした。正確性の判定が終わったので、これより制裁の時間に移ります》



機械的な声がそう言う。



「え? 制裁って……?」



有紀が焦ったような声を出す。



「わからない」



あたしは左右に首を振ってそうこたえた。



アナウンスでは《制裁》なんて事言っていなかった。



だけど、この中で一番正確性に欠ける《リプレイ》をしたのは、間違いなく有紀だった。



「大丈夫だよ。そんなに心配することないって」



あたしはそう言い、不安そうな顔を浮かべている有紀の手を握りしめた。



すると、その手の甲にうっすらと何かが浮かび上がって来るのが見えたのだ。



「有紀、これなに?」



「え?」



有紀が自分の手の甲を見て、キョトンとした顔になる。



薄く線を引いたようなそれはどんどん濃くなっていき、×の形になっていく。



「やだ、なにこれ!?」



有紀が怯えて自分の手の甲をこする。



すると×印のマークにそってパンッ!と皮膚がはじけたのだ。



有紀の悲鳴が響き渡り、手から血がほとばしる。



千鶴がその場から離れ混乱した悲鳴を上げる。



信一と真が崩れ落ちそうな千鶴を支えている。



続が悲鳴に近い声で何かを叫んでいる。



みんなの声がかき乱れで、誰が何を言っているのかわからない。



あたしは唖然として声も出せなかった。



有紀の手の甲は×の形に大きくえぐれてしまい、骨が見えている。



床に転げまわる有紀の体に、×印が次々と現れ始めてあたしは思わず後ずさりをしていた。



×印は体中を埋めつくし、そして順番に弾けていった。



有紀と血と肉がそこら中に飛び散り、その度に有紀は絶叫上げて苦しんだ。



続が有紀に駆け寄り、腕に浮かんでいる×印を両手で押さえつけた。



しかし、×印はそれを跳ね返すように勢いよく弾けた。



続に血しぶきがかかり、真っ赤に染まる。



「誰か助けて!!」



千鶴が叫びながら窓を叩く。



それを見ていた真が椅子を持ち上げて窓を叩き始めた。



しかし窓は割れる所か傷1つつかない。



あたしはドアへと向き直り力を込めてあけようとした。



けれどやはりドアは開かない。



必死になって蹴飛ばしてみても、びくともしなかった。



教室中が悲鳴と混乱に包まれる中、有紀が静かになった。



床に寝そべったまま白目をむき、ピクリとも動かない。



「嘘でしょ!?」



あたしは叫び、有紀にかけよった。



脈をはかろうと思ったが、有紀の体はどこもかしこも傷だからけで掴む事ができない。



耳を有紀の鼻に近付けてその呼吸を確認してみたが……有紀は呼吸をしていなかったのだった……。

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