第4話

あの様子を見る限りじゃ千鶴は関係ないような気がする。



というか、あの愉快な音楽が流れてよくわからないリプレイを迫られることから、これは学校のなにかの行事ではないかと思い始めていた。



「あ、時計が進んでる」



ふと視線を上げると、黒板の上で止まっていた時計が進みだしているのがわかった。



「相談時間は30分って言ってたな。これ、カウントしているんじゃないか?」

続が時計を見上げてそう言った。



「そっか。そうかもしれないね」



それなら今まで時計が止まっていた理由がわかる。



時刻を表示するものではなく、相談時間をカウントするために付けられていたのだ。



長針は文字盤の上をスムーズに進んでいく。



「相談、した方がいいのかな?」



そう言ったのは有紀だった。



「相談って言われても、今日の放課後を再現しろってことでしょ? なにを相談すればいいの?」



「さぁ……わからないけど……」



「一応、自分の席に座ってみるか」



続がそう言い、立ち上がった。



それにつられて、あたしと有紀も動き出す。



あたしの席は窓際の真ん中の席、



続は教室中央。



有紀はあたしと同じ列の一番後ろの席だ。



それを見た千鶴が「バカみたい」と、呟いた。



真がその言葉に笑い声を上げる。



あたしはそんな2人から視線を外した。



この部屋から出られないのだから、あの声に従うしか道はない。



そのことは千鶴だってよく理解しているだろう。



イライラするだけ時間がもったいない。



そう思い、机の木目を見た。



と、その時だった。



千鶴と一緒にいた信一があたしの隣に座った。



教室内での信一の机がある場所だ。



「なんか、嫌な予感がするな」



信一が小声呟く。



それはあたしにしか聞こえないくらい小さな声だった。



「嫌な予感?」



「あぁ。なんだかわからないけど、胸騒ぎがする」



信一はそう言い、眉を寄せた。



あたしには信一の言う胸騒ぎがよくわからなかったけれど、こんな状況じゃ仕方ない事だ。



時計に目やると、長針は20の所まで動いている。



あと10分で《リプレイ》というやつをやらなきゃいけない事になる。



あたしは今日の放課後に何があったかを思い出していた。



帰りのホームルームが終わった後、あたしは有紀と今日出た課題についての話を少しだけして、そのまま教室を出た。



教室から出る事はできないだろうから、会話をしたところまで再現すれば大丈夫だろうか?



あたしは振り向いて有紀を見た。



有紀はぼんやりと外の景色を眺めている。



確か、有紀はあたしと課題の話をした後、他のクラスメートに呼ばれて何か話をしていたっけ。



あたしのようにすぐには帰っていないはずだ。



でも、そのクラスメートたちは今ここにはいない。



そういう場合はどうするんだろう?



1人でも、みんながそこにいると仮定して再現を進めたほうがいいのだろうか?



疑問を感じた時あたしはハッとした。



そうか。



《リプレイ》までの相談時間はこういう事に使うのかもしれない!



たとえば、あたしが有紀と会話をしていたクラスメートになりきるとか、事前に打ち合わせをすればいいんだ!



そう理解したあたしは席を立とうとした。



けれど、そのタイミングでスピーカーからあの声が流れ始めたのだ。



《それではこれより、リプレイを開始していただきます。……リプレイ、スタート》



プツンッと音が途切れる。



それと同時に時計の針がグルグルと回りはじめ、4時10分を指した。



これはホームルームが終わった放課後の時間だ。



そこから針はまた動き始める。



「これ、もう開始してるんだよな?」



そう言ったのは続だった。



「たぶんな」



信一が首をかしげながら答える。



あたしは机の中を確認した。



しっかりと教科書が入っていて、机の横には鞄もかかっている。



あたしはとりあえず鞄に教科書を詰めはじめた。



授業が終わって帰るときには誰もが必ずこうするから、間違いじゃないはずだ。



すべての教科書やノートを鞄に入れたあたしは席を立った。



たしか、ここで有紀が話しかけて来たはずだ。



振り向くと、有紀がこちらへ向かってくるのが見えた。



「ねぇ奏、今日出た課題なんだけどさぁ」



「なに?」



「先生の話を聞きそびれちゃって、教科書の範囲教えてくれない?」



そう、たしかこんな感じの質問をされたんだった。



「いいよ」



あたしは頷き、一旦鞄に入れた教科書を取り出して有紀に課題の範囲を教えた。



有紀はそれをメモして、その時他のクラスメートから話しかけられたんだ。



「じゃぁねまた明日ね」



あたしは有紀にそう声をかけ、鞄を手に出口へと向かう。



と、その時だった。



「待って! 一緒に帰ろう!」



有紀がそう声をかけて来たのだ。



あたしは驚いて振り向き、鞄を持ってかけてくる有紀を見た。



他の面々はクラスメートがいなくても、目の前にいる事を前提で再現を始めている。



千鶴も、めんどくさそうな顔をしながらもできるだけ細かく放課後を再現しているのが見えた。



「有紀っ……」



あたしは思わず有紀の名前を呼ぶ。



有紀はあたしを追い越してドアへと進んで行った。



そしてドアの手前で立ちどまり、「これでいいんでしょ?」と、言った。



あたしは慌ててドアまで行き、念のためドアを開ける素振りをしてから有紀を見た。



「有紀、有紀は今日の放課後あたしと一緒に帰ってないよね?」



「うん。でも、あの後はあたし他の子たちと話をしてたんだもん。1人でそれを再現するなんて難しいし」



そう言い、有紀は床に腰を下ろした。



確かに1人で再現するのは難しいけれど……有紀1人だけが放課後の再現を大幅に怠ってしまって大丈夫だろうか?



そんな気持ちになる。



そして時間は過ぎていき、全員がドアの前まで移動してきた。



これで放課後の《リプレイ》は終わった事になる。



黒板の上の時計は30分のところに来て、止まった。



「で、これがどうなるのよ」



千鶴が呟く。



こんな事をするのが犯人の目的だとしたら、全く意味がわからない。



あたしたちに放課後を再現させて、一体なにがあるっていうんだろう?



わけがわからず、あたしは首をかしげたのだった。

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