第3話
それからあたしたちは2年A組の教室をどこまで再現できているのか、覚えている限りで見て回ることにした。
黒板の上にかけられている白い時計。
黒板の右下に書かれている日直の名前。
教室後方の壁に貼られているプリントやポスター類。
そのどれもが見覚えのあるものばかりで、見れば見るほど気分は悪くなっていった。
これほどまで忠実な教室を再現できる人物なんて、本当にごくわずかしかいないだろう。
机の中を見て見ると、砂川高校で使われている教科書がちゃんと入っていた。
「気味が悪い……」
有紀がそう言って身震いをした。
「あたしも。ねぇ、少し休もうよ」
あたしが声をかけると、教室の中を見て回っていた男子たちが教卓の方へと集まってきた。
千鶴は動くのが嫌だからと、教卓の椅子にずっと座っていた。
あたしと有紀が教卓の横に座ると、その隣に続が座った。
「いろいろ見て回ったけれど、俺たちがどうしてここへ集められたのかまではわからないな」
続の言葉に「そうだね」と、頷く。
続は机の中に入っていた教科書をめくって調べたりもしてくれていたけれど、犯人の手掛かりになるようなものはなにもなかったそうだ。
でも、さっきの続の推理と当てはめて考えてみると、どんどん千鶴が怪しく見えてくる。
「犯人の目的ってなんなんだろう……」
有紀が疲れ切った表情でそう言った。
「それがわかれば、あたしたちも何かできる事があるんだろうけれど……」
あたしは困ったようにそう返事をした。
スマホで時間を確認するとここで目が覚めてから1時間ほどが経過していることがわかった。
しかし、今のところ犯人からの要求とか、そういったものはなにもない。
「あの時計、止まってるんだな」
続がそう言い、黒板の上の時計を指さした。
あたしと有紀はそれにつられて視線を上げる。
「本当だ」
さっきは気が付かなかったけれど、時計は12時ピッタリの所で針が止まっている。
「どうして時計だけ合わせてないんだろう……」
続が不思議そうにつぶやいた。
「あたしたちに時間を知らせたくないから……って、それならスマホを取り上げてればいいだけか」
あたしは自分の手の中にあるスマホを見てそう言った。
「そうだよ。あたしたちはスマホを持っているのも疑問だったんだよね」
有紀が首をかしげてそう言った。
「疑問ってどういう意味?」
あたしは有紀にそう聞いた。
いまどきスマホを持っていない高校生なんてめったにいない。
「だってさ、本当に誘拐されたんだとしたら、誘拐する時にスマホを壊したりしそうじゃない?
スマホで位置情報がわかるのは誰でも知っていることだし、外部と連絡を取られるかもって考えると、普通壊したり捨てたりするでしょ」
「あ、そっか……」
「それにあたし、スマホはポケットじゃなく鞄に入れてたの。それなのにここで目覚めた時制服のポケットに入ってた。
犯人がわざと入れたとしか考えられないよ」
確かに、有紀の言う通りだ。
全員のポケットにスマホが入っていたし、犯人が故意に入れたと考えるのが妥当だった。
「でも、なんでだろう? ここは電波も通じないから使えないのに……」
あたしは自分のスマホに視線を落とした。
相変わらず電波はない状態だ。
「なにか理由があるんだろうな」
続も首を傾げながらそう言った。
わけがわからない。
そう思った時だった。
突然スピーカーから砂嵐のような雑音が聞こえてきて、あたしたちは息を止めた。
全員の視線が柱の上に取り付けられているスピーカーに向かう。
「なんだ……?」
真が呟く声が聞こえてくる。
しかし、誰もが息を殺してスピーカーを見ているだけだった。
そして、雑音がプツリと止まった。
教室の中に静けさが下りてくる。
今のは一体……?
そう思うと同時に、スピーカーから機械的な声が聞こえて来た。
《砂川高校2年A組のみなさまこんにちは。これからみなさまには『リプレイ』をしていただきます》
男か女かの判断もつかない声が、抑揚のない口調でそう言った。
「リプレイ……?」
千鶴が呟く声が聞こえてくる。
あたしはチラリと千鶴の方へ視線を送った。
今のところ一番犯人像に近いのは千鶴だ。
千鶴は椅子に足をくんで座り、腕組をしてスピーカーを見上げている。
その表情は睨んでいるようにも見える。
《相談時間は30分。その後リプレイをスタートしていただきます。
なお、プレイヤーを傷つけたり、法律に違反する行為をしてはいけません。
それではこれより、第1回リプレイのお題を発表します》
声がそう言った瞬間、スピーカーから軽快な音楽が流れ始めた。
それは一瞬にしてあたしたちの緊張をほぐした。
ジャジャンッ!
と音楽が鳴り終わり、《今日の放課後をリプレイしなさい》と、アナウンスが流れる。
そして、プツリと音は途切れてしまった。
「……今のなに?」
有紀が少し眉を下げてそう言った。
不安になっているよいうより、呆れている表情に近い。
「さぁ……?」
あたしは首を傾げる。
「これが犯人の要求か?」
続が肩をすくめてそう言った。
「もう、全然意味がわからないんだけど」
千鶴はそう言い、乱暴に教卓を蹴った。
ガンッ! と音がして揺らぐ教卓に信一が慌てて手を置いた。
千鶴はかなりイライラしている様子で「早く帰りたいんだけど」と、言った。
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