おもちくんときなこさん

@ramia294

第1話

 黄金こがねの稲穂が、心地よい秋風に吹かれてから、3ヶ月。いよいよ、お正月が、近づいて来ました。


 この小さな村でも、ペッタン、ペッタン、お餅つきの音が、あちこちから響きます。

 嬉しい、嬉しいお正月に備えて、たくさんのお餅が、生まれました。

 つきたてを食べて貰った幸運なお餅もいれば、正月飾りの鏡餅の栄誉を受け、自慢げなお餅もいます。

 しかし、僕は、ひと𦥑うすの半端もの。

 小さなお餅のおもちくん。

 僕を食べてもらえるのは、年明けでしょうか?

 カビだらけになって、棄てられるのでしょか?


 お正月まで待ちきれない子供たちは、この時期毎日の様にお餅を食べます。

 お醤油に、のり巻き、大根おろしに、チーズやバター。

 

 お餅の真っ白な身体と、どこまでも伸びる心は、どんな味でも受け止めます。

 お餅は、偉いのです。


 しかし…。


 つきたてのお餅の僕。

 出会ってしまいました。

 運命の美しいそのこ

 …な?

 その愛しいお相手の名前は、きなこさん。


 その清楚な黄色、かぐわしい香り。

 僕の胸はドキドキ。


 きめこまやかな彼女と触れ合うひと夜を夢に見る、餅とり粉まみれの白い身体の僕。


 きなこさんに、優しく、甘く、包まれたお餅の幸せは、至上の喜び。

 初めて、妬む仲間のお餅。

 僕にもその喜びをこの白い肌に…ください。


 震える僕の胸、網の上で炎に、

 炙られる前に膨らみ、破裂しそう。


 つきたてのあの日の一目惚れから、

 僕が、きなこちゃんに包まれる幸せを夢見る夜が、2回。


 僕にも思春期が?


 いいえ、

 大晦日の夜が。


 カツオの香りのたつ、おつゆの中のお蕎麦くん。

 うどんよりは少し甘辛なおつゆの温泉。

 ゆったり、くったりのお蕎麦くんとニシン君。

 

「気持ちいいよ。おもちくんも一緒に温泉へ入らないか?」


 仲良しのお蕎麦くんのお誘い。

 気持ち良さそうな、ニシン君。

 カツオさんの香りにウットリして、つゆの中で泳いでいます。

 お蕎麦くんも丼の中で、グルグル。

 香ばしい香りの温泉。

 羨ましく。

 しかし、

 お餅の僕、

 一途。

 きなこさんひと筋。

 いつか、この恋が報われる事を夢みる、真っ白な身体。


「お蕎麦だけでは、お腹が空くよ」


 育ち盛りの子供には、蕎麦1杯では、足りません。


「お餅でも焼こうか?お蕎麦に入れれば、おつゆを吸って美味しいよ」


 お母さんが、餅箱から、取り出したのは、僕。

 僕?

 まさかの、僕の運命。

 きなこさんと出会う事もなく、炙られ、お蕎麦のつゆの中。

 僕の恋。

 悲恋決定。

 ひと𦥑の中の中途半端な僕の恋。

 叶わぬ夢。

 泣きながら、子供のお腹へ旅立つようです。

 止まる箸。

 動く子供の口。


「きなこがいい」


 子供のワガママは、突然に…。

 きなこさんとの両想いは、突然に…。


 子供には、甘辛よりも甘々。

 お蕎麦の温かいつゆの中で、くったりした僕は、お皿に取り出され、あの憧れのきなこさんと触れ合いました。


 憧れのきなこさんを纏った僕の少しの焦げた白い肌。

 夢見る香りと、

 なめらかな肌触り。

 僕は、至上の幸福の中、きなこさんと結ばれました。

 二人の愛は、永遠です。

 プロポーズ。

 彼女の笑顔。

 僕の涙。

 チョッピリカツオの香り。


 この世で、最も美しい愛をこのままふたり…


 パクリ ლ(´ڡ`ლ)


「美味しかった。小さかったから、もう一つ食べたいな」


「もう駄目よ、寝る時間だからね。お正月だからお餅ならまた、たくさん食べれるわ亅


 あけまして、おめでとうございます!

           ʘ⁠‿⁠ʘ



 

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