第8話親父

『ねえ!お父さんって、どんな人?』 

さゆりは、急に話しを変えてきた。

『親父?』 

『そう、昨日怒鳴り込んで来たけど、普段はどんな感じ?』

『普段もあんな感じだよ。もう定年だし、日中はプラプラしてる。』

『そう。結構お母さんより歳上よね?

そっか、亮、お兄さんと歳離れてるもんね』

『ああ、兄貴が生まれてしばらくしてから、俺が生まれたから、小さい頃は兄貴の方が父親みたいな感じだったな』

『ふう〜ん』

『ガキの頃も、休日はどっかプラプラしてたし、平日も夜遅くまで帰って来ないし、ほとんど喋んないし』

『そうなんだ』

『話してみたいな、お父さんとも。』

『今日だって、どっか行っちまっていないぜ。』

『帰って来るでしょ?そのうち。』

『さあな、いつ帰って来るかな?』

『会いたいな』

『物好きだな、ホントに』

『ねえ、明日からどうすんの?』

『明日?』

『学校行くんでしょ?』

『・・・・多分な』

『一緒に通う?』

『!?』

『どお?』

『どお、って、お前ここから通うのかよ?』

『そんな訳ないじゃん、自宅からよ。』

『・・・・・』

『亮、北校でしょ?』

『何で知ってんだ?』

『さっきお母さんに聞いた、あんまりちゃんと通ってないって』

『あのババァ』

『私、○○から電車に乗るんだけど、ココの駅で、待ち合わせしてさ。』

さゆりは2つ程隣りの駅名を言った。

『一緒に行こうよ。』

『・・・・・』

『ねっ?』

『・・・お前、北高じゃないよな?』

『違うよ、今まで学校で会った事ないじゃない』

『学校にどんな人がいるかなんて、わかんねえよ』

『こんなにかわいい子がいたら、噂になるでしょ』

『・・・・・』

『普段学校にあまり行かないから、分かんないんでしょ?』

『行ってるよ、ちゃんと』

『そお?、でさ、帰りも待ち合わせして、一緒に帰って来ようよ』

『・・・・』

『たまに、ココで一緒に降りてお姉ちゃん達に会ったりさ』

『・・・・』

『お母さんと会って話ししたりさ』

『いいよ、お袋に会わなくたって』

『一緒に勉強したりさ』

『!』

『どおよ?少年?』

『・・・・・・・・』

黙って返事を決めあぐねていると、実家のドアが開く音がして、中から母親が出迎えてきた。

『あら、おかえりなさい。』

声が聞こえる。

『あっ!お父さん帰って来た!』

『みたいだな』

『ちょっと行ってくる!』

『おい!』

さゆりはピュッと飛び出して行ってしまった。


チャイムの音に、亮の母、志津子が玄関先に来て、

『は〜い、どちらさまで、』

と言いながらドアを開ける。

『こんにちわ、お母さん。』

『あら、さゆりちゃん!』

うれしそうに答える。

『お父さん、お帰りですか?』

『ええ、帰って来たわよ』

『お話し出来ますかね?』

『ちょっと、待ってて、聞いてくる』

『はい』

志津子は居間の方へ小走りで入って行く。

やがて、中から

『さゆりちゃん、どうぞ、上がって』

『はい、お邪魔します。』

笑顔で上がる。

居間に入ると亮の父親、昭雄が椅子に腰かけながら、チラリとさゆりを見る。

『こんにちわ、先日は失礼しました。』

昭雄は、少し思い出して

『ああ』

と、短く返事をした。

『今日、姉達の引っ越しの片づけの手伝いに来たんですけど、先日の事を謝りにきました。』

『・・・・・』

『本当に申し訳ありませんでした』

頭を下げるさゆり

『・・・・・お嬢さんは、一緒に騒いでたわけじゃないんだ、もう構わないよ。ただお姉さんの旦那さんやうちのバカ息子が騒いでいるのを止めて欲しかった。』

『はい、本当にごめんなさい。』

また、ペコリと頭を下げる。

『うむ、もういいよ』

それだけ言うと昭雄は新聞を拡げた。

『さゆりちゃん、ねっ』

志津子はもういいわよ、という感じでさゆりに近づき、

『お父さん、あなたの事は怒ってないから』

『はい』

と、答えるさゆり。

そこに玄関を開けて亮が入ってきた。

『親父』

昭雄は新聞に目を向けていて亮を見ない。

亮は構わず、

『明日から、あそこから学校通うから』

それだけ告げて、出て行こうとすると、その背中に向かって、

『バイトばかりしていないで、ちゃんと高校くらい卒業しろ』

それだけ声を掛けた。

『ああ』

そう返事をすると亮は自室に戻った。

部屋に入るとベッドに寝転び、

『ふ〜う』

(ちゃんとやらなきゃな)

と、溜め息をついた。 

(きちんとやるって兄貴とも約束したし、親父の事、任されてんのに、逆に心配掛けてちゃ駄目だよな)

などと少しの間考えていたが、ふとさゆりの事を思い出した。

あの後すぐに帰ってくるかと思ったけど、

どうしたんだろ?

お姉さん達の所に戻ったのかな?

玄関に行きドアを開けて、隣りの様子を伺う。

すると実家の方から、さゆりや母親の声が聞こえてきた。

『まだ、いるのか?アイツ、何やってんだ?』

楽しそうに笑い声など聞こえる。

『まあ、親父と言い合いしてるんじゃないみたいだな』

(放っておくか) 

部屋に戻った。

また少しベッドに横になっていたが気になって、実家に行った。

すると居間で、さゆりとお袋、そして親父までもが3人で楽しそうに話している。

『あら?亮、どうしたのアンタ』

『いや、何やってんの?』

『今ねえ、さゆりちゃんとお父さんと3人でアンタの事話してたのよ』

『え?』

『さゆりちゃん、アンタがちゃんと学校行く様に、一緒に通ってくれるって』

『!』

『おい亮!こんなかわいいお嬢さんが一緒に通ってくれるって言ってんだ。ちゃんと学校行かないとバチが当たるぞ!俺が一緒に通いたいもんだ』

『お父さんたら!』

(・・・親父まで、・・・なんてこった)

『私がちゃんと付き沿いますから』

『よろしくお願いね、さゆりちゃん』

『たのんます、さゆりさん』

『はい』

『おい亮、本当いい子だな、大事にしろよ!』

『・・・・・・・・・』





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