第7話お母さん

亮は自室に入ると、改めてここ最近の出来事を思い返した。

一昨日、一人の女の子が現れた。

自宅の2階の貸間に、新しく住む事になった新婚夫婦の奥さんの妹だというその女の子。

旦那さんの信二さんは、見た目は熊の様だが、気さくな人で、兄貴のような感じして、気兼ねなくよくしてくれる。

奥さんの慶子さんも、美人で優しく、信二さんよりだいぶ若いが、誰より信二さんを信頼しているのがよくわかる。

よくわからないのが、慶子さんの妹のさゆりである。

3人の中で、一番最初に出逢ったのは彼女だが、ヤケに馴れ馴れしい。

人見知りしないとか、物置時しないとか、そういった以上に積極的なのだ。

おまけに、俺の事を好きになったらしい。

直接告白されたわけでもないが、一日引っ越しの手伝いの最中に、多少やりとりがあっただけ。

そのやりとりも大した事なかったのに、また翌日に会うなるとうれしいという。

その彼女のうれしいという感情は、慶子さんによると、俺の事を好きになったという事のようだ。

俺があまり、人と関わらない様にするから、さゆりのようにグイグイ来るタイプは何を考えてるのか分からない。

自分の母親にも積極的にアピールしてるし、失礼なくらい遠慮がない。

  

そうこう考えてるとチャイムが鳴った。

『はい!』

『慶子です』

ドアを開ける。

『亮さん、今忙しい?』

『いえ、大丈夫ですけど、』

『そう、今、さゆりか昔の洋服着てみてるんだけど、亮さんに見て欲しいって』

『・・・はあ』

『部屋、来てもらっていい?』

『別に大丈夫ですけど』

『じゃあ』

慶子に促されて隣りの部屋へ行く。

中に招かれると、和室の方に向かって

『さゆり、亮さんに来てもらったわよ』

と声を掛けた。

『あっ本当!ありがとうお姉ちゃん!』

中からさゆりが返事をする。

『亮、そこにいる?』

『ああ』

その瞬間、襖がサーと勢いよく開いた。

『・・・・・』

亮は呆然とした。

さゆりがウエディングドレスを着て立っていたのである。

『・・・・・・・・・』

『どう?』

『・・・・・・・・・』

『綺麗?』

『・・・・・・・・・』

『似合う?』

『・・・・・・・・・』

『・・・亮?』

『・・・・・・・・・』

『亮!ちゃんと見てんの?!』

『・・・・ああ・・・・』

亮は、やっと我に返り、そう答えた。

『・・何よ、もう!、・・・どう?私、綺麗?』

『・・・・・・・・うん』

『えへへ、そうだろ、そうだろ、・・・私に似合ってる?』

『うん』

『どの辺が綺麗?特に』

『・・・』

ボソッと亮が言う

『ん?何?』

『ドレスが綺麗、真っ白で』

『・・・・・・・』

『ウエディングドレスって、初めて目の前で見たけど、すごい綺麗なんだね』

『・・・・・・・』

『・・・ビックリした。』

『・・・・・・・で?』 

『・・・・・・・で?』

『何よ、それだけ?』

『それだけって、ドレスを俺に見せたかったんじゃ?・・・・』

『そうじゃなくて、着てる私よ、私の事よ!』

『・・・・さゆり、さんでしょ?』

『・・そうよ!この格好見てどうよ?』

『・・・・・』

『惚れ直した?』

『・・・・・別に』

『!何よ!バカ亮!もういい!』

『・・・・・・・』

『ハハハ、さゆり、亮だってビックリしてるじゃないか』

『そうよ、さゆり。亮さんだって急に目の前に花嫁衣裳のあなたがいたら、驚くわよ』

『・・・・・・』

『さあ、大事な衣裳なんだからもう脱いでちょうだい、しまっとくんだから』

『え〜もう?』

『亮さんに見てもらったんだから、もういいでしょ』

『でも・・・・』

『次はちゃんと式挙げる時に、着させてあげるから』

『は〜い』

『ねっ、亮さん』

『・・・・はい?』

『亮、ちゃんと聞いてた?』

『何が?』

『次私がこれを着るのは、旦那様の隣りに並ぶ時だから』

『・・・・はあ』

『・・・・・分かってるの?』 

『・・・・・・?』

『もういい!』

『さあ、さゆり、着替えて。亮もごめんなさいね、急に呼んだりして』

『いえ、・・・じゃあ俺はこれで』

『おう!悪かったな、亮!』 

『失礼します』 


自室に戻り、ベッドに横になる。

目を閉じると今見た、さゆりのウエディングドレス姿を思い浮かべる。

(綺麗だったな凄く)

純白のドレス姿が目に焼き付いている。

(・・・アイツも、・・綺麗だった・・)

女の子はウエディングドレスに憧れがあると聞いた事がある。

将来結婚する時、好きな人の隣りであの衣装を着るのであろう。

(アイツ、あの格好を俺に見せて、・・・・本当に何考えてんだか・・・)

天を仰ぐ。

(どこまで本気なんだか、まだ3日しか経ってないぜ、知り合ってから)

気を取り直し、部屋の整理に取りかかった。程なくすると又、チャイムが鳴った。

と、思ったら、直ぐにドアが開いて、

『亮!居る!』

と、さゆりが飛び込んで来た。

『・・・・居るけど・・・』

『何よ!その顔』 

『お前なあ、チャイムの返事を待てよ。急にドア開けて入って来るなよ、失礼じゃないか』 

『いいじゃない別に、そんな事。赤の他人じゃないんだから、それよりさあ』 

『何?』

『何って、決まってるじゃない、私の花嫁姿よ!』

『・・・・・』

『思い出してたんでしょう?』

『・・・まあ・・・』

『綺麗だったでしょ?』

『・・・・・・・』 

『こんなかわいいお嫁さん、欲しいでしょ?』

『・・・・・別に・・・』

『・・・・・ホント、素直じゃないわね』

『なんだよそれ』

『さっき、亮のお母さんも言ってた。』

『何を?』

『亮はひねくれてるって』

『・・・・・・』

『・・・あ〜あ、お母さんなら、こんな娘さんが来てくれたら、喜ぶだろうなあ〜』

『自分で言うか。それより、どうしたんだよあの衣裳?』

『ん?』

『あっ!慶子さんが信二さんと結婚した時に着たドレスか?』

『うん。お姉ちゃんも着たけど、お母さんのなの。』

『お母さん?』

『そうよ、お母さんが着たのをお姉ちゃんが着て、次は私の番よ』

『ふう〜ん』

『ねっ!』

『・・・・・』

じっと見つめてくる。

『・・・・・』

『だから、なんだよ』

『・・・・・』

さゆりは、じっと亮を見つめている。


 




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